トランプ米政権は22日、北朝鮮の核・ミサイル開発に関与したとして、中国やロシアなどの企業10社と個人6人を制裁対象に追加した。国連安全保障理事会が採択した北朝鮮企業との石炭や石油、金属などの取引を禁止した決議に違反したとしている。
ただ、中国の銀行は今のところ米国の制裁対象には含まれていない。複数の専門家や元米政府高官の話では、北朝鮮が米国で資金洗浄を行って国際貿易ができるように、中国の銀行が手助けしているというにもかかわらずだ。
これらの銀行を標的とする「二次的制裁」は、ドル建て取引を禁止されることで業務に致命的な影響を与え、銀行側はかつて対イラン制裁に違反した欧州の銀行が科されたような莫大な罰金を支払わなければならない。
トランプ政権内の対中国強硬派は、中国が北朝鮮に影響力を行使しない様子に不満を募らせ、二次的制裁の発動を求めている。
しかしより穏健で経済を重視するムニューシン財務長官やコーン国家経済会議(NEC)委員長らは、そうした制裁が中国との経済関係に及ぼす影響を懸念している。
元国務省高官でイランや北朝鮮への制裁に携わったジョセフ・ディトーマス氏は、22日に発表された追加制裁リストに触れて
「中国の金融機関(への制裁)を見送ったのは驚くに当たらない。米国の金融システムと深く関わる彼らにまで対象を広げてしまえば、情勢が急展開してかなり予想不能な事態になる」と述べた。
国連は今月、北朝鮮の石炭などの輸出を全面禁止する決議を採択。中国がこれに署名したことが、既にトランプ政権にとって大きな外交的勝利だった。
2月まで北朝鮮制裁を担当する国務省の調整官だったダン・フリード氏は、「一般的なルール」としては、米政府は中国の銀行を制裁対象に加える前に同国に警告を発することになるが、常に実施できるとは限らないと指摘。
まずは銀行よりも、国連決議違反の中国企業を制裁するのが得策であり、北朝鮮の労働者を雇っている業界、特に繊維産業に関して、中国を含めた企業の個別名を挙げて非難する手も検討すべきだと提言する。
一方、元中央情報局(CIA)幹部のデービッド・コーエン氏は、
国連決議の履行だけでは、香港や中国にある北朝鮮のフロント企業が資金を本国に移す場合に使われることが多い中国の銀行との取引関係が生み出す問題を解決できそうにないと主張し、二次的制裁が有効打になり得ると付け加えた。
北朝鮮が持つ海外との金融的なつながりを包括的に断ち切るという試みには、成功の前例がある。それはジョージ・W・ブッシュ、オバマ両政権が実施したイランの核開発に歯止めをかけるための取り組みだ。米議会も強力な制裁措置を承認して後押しした。
これは実際に効果を発揮。イランの原油輸出は半分未満に落ち込み、物価は高騰して通貨が急落した。
国際通貨基金(IMF)のデータによると、2012年と13年の成長率はそれぞれマイナスの5.6%と1.7%を記録し、イランは核開発を巡る交渉を受け入れ、最終的に核開発の制限に同意した。
トランプ政権が中国の銀行に対する全般的な制裁に踏み切れない状況について、元財務省高官のアンソニー・ルギエロ氏は、中国側の報復に対する行き過ぎた懸念が原因だとみている。
ルギエロ氏は「やりようはある。資産凍結や米国市場からの締め出しなどをする必要はない。基本的に中国の銀行の国連決議順守過程が適切でなく、相当な罰金支払いを命じる可能性があると宣言すれば良い」と話した。
それでも議会は、北朝鮮と取引するいかなる銀行にも制裁ができる法案の審議を予定している。これはイラン向けの制裁措置をほぼ踏襲したものだ。法案提出者の1人である民主党のクリス・バンホーレン上院議員は
「民主・共和の歴代政権は北朝鮮に経済的圧力をかける場合、中国が協力してくれると信じていた。われわれは、穏やかな協力のお願いをやめて、中国は署名した決議をきっちり履行すべきだと声高に要求する姿勢に転じる必要がある」と説明した。
(Yeganeh Torbati、David Brunnstrom記者)
http://jp.reuters.com/article/us-north-korea-china-idJPKCN1B50GT?sp=true