【ソウル曽山茂志】韓国の文在寅(ムンジェイン)大統領が17日、日本の植民地時代の徴用工問題について個人請求権が存続するとの見解を初めて示した。弁護士として元徴用工の支援を続けた文氏の信念に基づく発言とみられるが、従軍慰安婦問題に続いて「解決済み」の問題を蒸し返すような文氏の姿勢に日本の反発は確実だ。
大統領就任100日で日本メディアも招かれた記者会見。徴用工問題への姿勢を問われた文氏は、元徴用工の個人請求権は消滅しないとした2012年の韓国最高裁の判断をよどみなく紹介し、「政府はこの姿勢で過去の問題に臨んでいる」と明言した。
戦時中に広島の三菱重工業の工場で働かされた5人の朝鮮半島出身の元徴用工らが同社に損害賠償を求めた訴訟で、韓国最高裁は12年、日本側の見解を否定した。元徴用工に賠償の道を開いた訴訟に文氏は弁護団の一人として携わった。
弁護団に加わった他の弁護士は、徴用工問題を取り上げた15日の「光復節」の演説を聞いて「大統領になっても信念は変わっていない」と実感した。それから2日後、文氏は新政権の徴用工問題に対する姿勢が、当時の最高裁の判断と同じであると述べ、さらに一歩踏み込んだ。
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韓国では、従軍慰安婦問題に続き、徴用工問題にも世論の目が向きつつある。12日にはソウル中心部の駅前に労組が徴用工像を設置。戦時中に三菱系の軍需工場があった西部の仁川市にも像が立ち、ソウルの日本大使館前と釜山の日本総領事館前にそれぞれ徴用工碑を建てる計画もある。
背景には、労組などとともに朴槿恵(パククネ)前大統領の弾劾運動の先頭に立ち続け、人権派弁護士として労働者に寄り添ってきた文氏への期待がある。「文政権はわれわれがつくった。長い間放置されてきた徴用工問題を解決できる好機だ」。日本大使館前に碑を設置する計画を進める市民団体の幹部は力を込める。文氏の発言は、こうした支持層を意識したとの見方もある。
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韓国メディアによると、韓国では三菱重工や新日鉄住金などを相手に損害賠償を求める訴訟が14件ある。元徴用工への支払いを命じる高裁判決を不服として企業側が上告し、最高裁が4年以上判断を示していないケースもある。日韓関係への影響を考慮しているとされるが、文氏の発言は最高裁の判断に影響しかねない。
最高裁が支払いを命じれば、数十万人とされる元徴用工やその遺族から新たな訴訟が相次ぐのは確実だ。支払い命令が出ても企業側は応じない姿勢だが、財産差し押さえ命令も想定され、「韓国での企業活動や進出に影響が出る可能性は否定できない」(外交筋)。
文氏は会見で「歴史問題は切り離し、韓日関係は未来志向的に発展させないといけない」とも強調した。だが、慰安婦問題に加え、徴用工問題まで蒸し返そうとする文氏に対し、自民党幹部は「またゴールポストを動かすのか」と不信感を隠さない。両国の関係改善の前提となる「信頼」が再び揺れている。
=2017/08/18付 西日本新聞朝刊=
https://www.nishinippon.co.jp/nnp/world/article/351665/
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