北朝鮮人民軍戦略軍司令官は、8月9日、中距離弾道ミサイル「火星12号」を4発同時にグアム島沖30〜40キロの海上に撃ち込む「包囲射撃」計画案を検討しており、「8月中旬までに最終完成させる」と表明した。
これに対しドナルド・トランプ米国大統領は、「これ以上、米国にいかなる脅しもかけるべきでない。北朝鮮は炎と怒りに見舞われるだろう」として、軍事力行使も辞さない考えを示した。
この発射計画が実施されれば、ミサイルは「島根県、広島県、高知県の上空を通過する」と北朝鮮は発表しており、日本政府は不測の事態に備え、愛媛県も含めた4県に対し航空自衛隊の「PAC-3」部隊を展開させた。また日本海には「SM-3」を装備する海上自衛隊イージス艦を配置している。
Xデーは8月21日、25日、9月9日
8月14日、金正恩朝鮮労働党委員長は、戦略軍司令部を視察し、ミサイル発射計画について報告を受け、「米国がまず、正しい選択をし、行動で示さなければならない」と主張。
そのうえで、金委員長は「米国の行動をもう少し見守る」「米国が我々の自制心を試し、朝鮮半島周辺で危険な行動を続ければ、重大な決断を下す」と述べた。
8月21日から31日の間には、定例の米韓合同演習が実施される予定であり、北朝鮮の反発が予想される。25日は「先軍の日」であり、9月9日は「建国記念日」である。
米韓合同演習の中止や延期がない限り、金正恩は8月21日、25日、9月9日のいずれかにミサイル発射計画を決行するのではと巷間囁かれている。
もし発射されたミサイルが公海上ではなく、グアム島の領海に着弾した場合、「炎と怒り」と言った手前、トランプ大統領も何らかの軍事力行使をせざるを得ないだろう。バラク・オバマ前大統領のシリアでの弱腰対応をさんざん貶したのだから。
急にきな臭くなってきた情勢に、日本でもメディアが盛んに取り上げている。だが、どうもピント外れの報道が多い。長年の軍事軽視のせいか基礎的な軍事的知識に欠けているからだろう。
代表的なものは14日付の電子版AERAの記事だろう。
「グアムへの北朝鮮ミサイル迎撃すれば、戦争状態 日米安保に殺される日本」と題し、「万が一、米国とともに日本が北朝鮮のミサイルを迎撃する事態になれば、これは北朝鮮への武力行使になるから、北朝鮮からみれば、日本と戦争状態に入ったことになり、東京がミサイル攻撃される可能性もある。
そうなれば、被害の規模は甚大なものになるだろう」と述べる。「それ(グアムの米軍基地)を守るために日本の数千、数万の国民の命を犠牲にするということはどう考えてもおかしい。天下の愚行だと言っても良いだろう」と結ぶ。
こういった集団的自衛権行使に絡めた批判はテレビのワイドショーでも盛んに報じられている。だが、誤った事実に基づいて報じているため「虚空に吠えて」いるとしか言いようがないものが多い。
グアム向けのミサイルは迎撃不可能
そもそもグアムに向けて撃たれた「火星12号」を日本海配備の海自イージス艦が迎撃するのは困難である。まして四国に配備したPAC-3にはその能力は全くない。
正確に言うと現有の海自SM-3ではブーストフェーズ(ブースターが燃え尽きるまでの間)での迎撃能力は極めて限定的である。
ブーストフェーズでは刻々と速度が増加しつつある状況なので、ミサイルの未来位置を出すことは難しく、正確な弾道計算はできない。よってブーストフェーズ間は着弾地さえ特定できない。
「火星12号」でグアムを狙う場合、弾頭重量、燃料量、そして撃ち方(最高高度をどうするか)によってブーストフェーズの終了点や最高高度も変わってくる。このため一概に言えないが最高高度は400キロから800キロ程度と予測されている。
現有のSM-3は迎撃能力の最高高度が約500キロと言われているが、ブーストフェーズ終了後に迎撃するとなると「後追い」となるため、日本海から現有SM-3による「火星12号」迎撃はほとんど不可能である。
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/50819
(>>2以降に続く)
これに対しドナルド・トランプ米国大統領は、「これ以上、米国にいかなる脅しもかけるべきでない。北朝鮮は炎と怒りに見舞われるだろう」として、軍事力行使も辞さない考えを示した。
この発射計画が実施されれば、ミサイルは「島根県、広島県、高知県の上空を通過する」と北朝鮮は発表しており、日本政府は不測の事態に備え、愛媛県も含めた4県に対し航空自衛隊の「PAC-3」部隊を展開させた。また日本海には「SM-3」を装備する海上自衛隊イージス艦を配置している。
Xデーは8月21日、25日、9月9日
8月14日、金正恩朝鮮労働党委員長は、戦略軍司令部を視察し、ミサイル発射計画について報告を受け、「米国がまず、正しい選択をし、行動で示さなければならない」と主張。
そのうえで、金委員長は「米国の行動をもう少し見守る」「米国が我々の自制心を試し、朝鮮半島周辺で危険な行動を続ければ、重大な決断を下す」と述べた。
8月21日から31日の間には、定例の米韓合同演習が実施される予定であり、北朝鮮の反発が予想される。25日は「先軍の日」であり、9月9日は「建国記念日」である。
米韓合同演習の中止や延期がない限り、金正恩は8月21日、25日、9月9日のいずれかにミサイル発射計画を決行するのではと巷間囁かれている。
もし発射されたミサイルが公海上ではなく、グアム島の領海に着弾した場合、「炎と怒り」と言った手前、トランプ大統領も何らかの軍事力行使をせざるを得ないだろう。バラク・オバマ前大統領のシリアでの弱腰対応をさんざん貶したのだから。
急にきな臭くなってきた情勢に、日本でもメディアが盛んに取り上げている。だが、どうもピント外れの報道が多い。長年の軍事軽視のせいか基礎的な軍事的知識に欠けているからだろう。
代表的なものは14日付の電子版AERAの記事だろう。
「グアムへの北朝鮮ミサイル迎撃すれば、戦争状態 日米安保に殺される日本」と題し、「万が一、米国とともに日本が北朝鮮のミサイルを迎撃する事態になれば、これは北朝鮮への武力行使になるから、北朝鮮からみれば、日本と戦争状態に入ったことになり、東京がミサイル攻撃される可能性もある。
そうなれば、被害の規模は甚大なものになるだろう」と述べる。「それ(グアムの米軍基地)を守るために日本の数千、数万の国民の命を犠牲にするということはどう考えてもおかしい。天下の愚行だと言っても良いだろう」と結ぶ。
こういった集団的自衛権行使に絡めた批判はテレビのワイドショーでも盛んに報じられている。だが、誤った事実に基づいて報じているため「虚空に吠えて」いるとしか言いようがないものが多い。
グアム向けのミサイルは迎撃不可能
そもそもグアムに向けて撃たれた「火星12号」を日本海配備の海自イージス艦が迎撃するのは困難である。まして四国に配備したPAC-3にはその能力は全くない。
正確に言うと現有の海自SM-3ではブーストフェーズ(ブースターが燃え尽きるまでの間)での迎撃能力は極めて限定的である。
ブーストフェーズでは刻々と速度が増加しつつある状況なので、ミサイルの未来位置を出すことは難しく、正確な弾道計算はできない。よってブーストフェーズ間は着弾地さえ特定できない。
「火星12号」でグアムを狙う場合、弾頭重量、燃料量、そして撃ち方(最高高度をどうするか)によってブーストフェーズの終了点や最高高度も変わってくる。このため一概に言えないが最高高度は400キロから800キロ程度と予測されている。
現有のSM-3は迎撃能力の最高高度が約500キロと言われているが、ブーストフェーズ終了後に迎撃するとなると「後追い」となるため、日本海から現有SM-3による「火星12号」迎撃はほとんど不可能である。
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/50819
(>>2以降に続く)