終戦の日 「戦後」を永続させてこそ
「もはや戦後ではない」
敗戦後の日本経済の急速な回復ぶりはかつて、こう形容され、流行語になりました。この言葉が今、意味合いを変え、逆説的にこの国の在り方を問うています。
北朝鮮の脅威や中国の軍事大国化に揺さぶられ、専守防衛の国是や日米の同盟関係がなし崩し的に変質していく−。そんな現代は戦後というより、むしろ「戦前」の様相を帯びていないか。
終戦からきょうで72年。戦火の記憶が薄れゆく中で、「不戦の誓い」を貫き通していく。その使命は格段に重みを増しています。
●105歳の「遺言」
冒頭の言葉は1956年の経済白書で記述されました。日本が敗戦の混乱期から脱した時期です。白書はこうも述べています。
「われわれはいまや異なった事態に当面しようとしている」
焦土からの復興需要は終わり、今後の経済のかじ取りは決して容易ではない、という認識でした。
現代にも通じます。経済の停滞と同時に、戦争体験が根を張った時代がもはや過ぎ去った今、この国の礎をどこに求めるか。
この命題に真摯(しんし)に向き合ってきた人がいます。先月、105歳で亡くなった日野原重明さんです。
「平和の尊さを次世代に語り継ぐことが私の使命だ」。明治生まれで生涯、現役医師を貫いた日野原さんはこう語ってきました。
戦火の時代、おびただしい犠牲者を目にした衝撃、命を救うすべを失った病院の混乱と苦悩…。
2年前の戦後70年に日野原さんは若者に向けた著書「戦争といのちと聖路加(せいるか)国際病院ものがたり」で医師故に鮮明な記憶をつづり、平和憲法の大切さを訴えています。
その前年には、憲法の意義を若者に伝える入門書を執筆し、「憲法こそが命を守る」として、改憲論議の危うさを指摘しました。
●“草の根”の広がり
総務省が今春まとめた人口推計(昨年10月時点)によると、戦後生まれは1億405万人で、総人口の82%に達しました。65歳以上の高齢者(3459万人)でみても、その3分の1が戦争未体験という現実が横たわります。
そうした時代変化のはざまで、戦後世代が過去への想像力を膨らませ、主体的に記憶を継承していく地道な営みも生まれています。
「この世界の片隅に」−。広島出身の漫画家、こうの史代さん原作のアニメ映画です。
戦前に広島で生まれ、戦中に呉に嫁いだ平凡な女性の日常に戦争の影がじわじわと忍び寄り、悲劇へと向かっていく。その姿が丹念に描かれ、昨秋の公開以来、異例のロングランを続けています。
こうのさん、監督の片渕須直さんはともに戦後世代で、緻密な取材と時代考証を基に、戦時下の暮らしや街の光景を細かく“再現”した場面構成は出色です。ネットで出資を募る「クラウドファンディング」で制作された“草の根映画”としても注目されました。
●憲法を生かす道へ
気掛かりなのは、性急さが目立つ今の国政です。安倍晋三政権は国際情勢の変化に乗じる形で、熟議がないまま安全保障政策の転換などを矢継ぎ早に進めました。
トランプ米政権が「米国第一」を掲げて国際秩序に混乱が生じた中で、日本は対米追随のままでいいのか。先の国会では防衛省の情報隠蔽(いんぺい)や防衛相の組織掌握の欠如もあぶり出されました。
平和憲法を持つ日本が主導すべきは本来、対話外交や人道面での国際協力です。現実は軍事的対応に傾斜し、近隣の中国、韓国との対話さえ滞りがちな状況です。
東アジアでは、人の往来が拡大しています。昨年の訪日客は中韓を中心に2403万人に達し、今年はさらに増加する勢いです。
https://www.nishinippon.co.jp/nnp/syasetu/article/351003/
(>>2以降に続く)