◆日米連携で国際秩序どう守るか◆
72回目の終戦の日を迎えた。東京・日本武道館では政府主催の全国戦没者追悼式が開かれる。
先の大戦の死者は310万人に上る。志半ばで亡くなった人々の尊い犠牲を礎に今日の平和と繁栄がある。改めて胸に深く刻みたい。
戦後日本は、東西対立期もポスト冷戦期も戦争に巻き込まれなかった。平和外交に加え、日米同盟と自衛隊の存在が抑止力となってきたことを忘れてはなるまい。
1954年に創設された自衛隊は、前身の警察予備隊以来、約1900人もの殉職者がいる。今春にも、陸上自衛隊機が北海道で墜落し、4人が命を落とした。
◆検討に値する9条改正
防衛省の敷地内には慰霊碑があり、毎年10月に政府が追悼式を行っている。国会議員の参列者が少ないことが気がかりだ。
安倍首相は、9条を維持したまま、自衛隊の根拠規定を加える憲法改正を提起した。長年の不毛な自衛隊「違憲論」に終止符を打つとともに、自衛官が誇りを持って厳しい任務に取り組めるようにする。そのような意図は理解できる。
自民党は、改正案の議論を進めている。「戦力不保持」などを定めた9条2項との整合性を取ることが欠かせない。熟議を重ね、説得力のある案をまとめてもらいたい。
自衛隊の重要性は近年、一段と高まっている。アジアの安全保障環境が悪化しているためだ。
北朝鮮は、核・ミサイル開発を急速に進展させた。中国は、日本領海に公船を再三侵入させ、南シナ海でも軍事拠点化を進める。
◆安保環境悪化に備えよ
北朝鮮の軍事的挑発を封じ込める。東・南シナ海での中国の「力による現状変更」を阻止する。そのカギは、やはり日米同盟だ。
日米両国は昨年、懸案のオバマ米大統領の広島訪問と、安倍首相の米ハワイ・真珠湾訪問を実現させた。大戦での恩讐おんしゅうを乗り越え、絆は格段に強固になった。
今年1月に就任したトランプ米大統領は、北朝鮮への影響力が強い中国に圧力強化を迫ってきた。南シナ海では「航行の自由作戦」を再開し、中国を牽制けんせいする。
トランプ外交の基本的な方向性は間違っていないが、場当たり的で、戦略性を欠く面もある。
安易な軍事力行使には自制を求める。自由や法の支配といった価値観を踏まえ、国際協調を促す。アジアの平和と秩序の維持へ、日本は米国にそうした働きかけを静かに続けることが大切だ。
懸念されるのは、日米韓の結束が求められる今、韓国の文在寅政権に歴史問題を蒸し返そうとする動きが出ていることだ。
鄭鉉栢女性家族相は、慰安婦問題の関連資料を国連教育・科学・文化機関(ユネスコ)の「世界の記憶」に登録しようとする民間団体を支援する、と表明した。
慰安婦問題の「不可逆的な解決」や、国連などでの「非難、批判の自制」を確認した2015年の日韓合意を無視するものだ。
徴用工など個人の請求権は消滅していないとする12年の韓国最高裁の判断以降、日本企業を相手取った訴訟が相次いでいる。今月も、光州地裁が2件で三菱重工業に賠償金の支払いを命じた。
両国間の請求権問題は1965年の日韓請求権協定で解決済みであり、疑問が残る判決だ。
◆反日の動きは要注意だ
12日には、ソウル、仁川両市内で徴用工像が設置された。日本大使館前への設置計画もある。徴用工を描いた反日的な映画「軍艦島」もヒットしている。民間の動きながら憂慮すべき事態だ。
今年は、盧溝橋事件、南京事件から80年となる。中国は、7月の盧溝橋事件の式典では対日批判を控えた。近年唱え始めた「抗日戦の起点は盧溝橋事件でなく満州事変」という主張の反映だろう。
歴史観の見直しには、盧溝橋事件と違って、日本軍の謀略で始まった満州事変の重要性を強調する狙いもうかがえる。中国が今後も歴史認識の問題で自制的な態度を保つのか、注視したい。
http://www.yomiuri.co.jp/editorial/20170814-OYT1T50098.html
(>>2以降に続く)
72回目の終戦の日を迎えた。東京・日本武道館では政府主催の全国戦没者追悼式が開かれる。
先の大戦の死者は310万人に上る。志半ばで亡くなった人々の尊い犠牲を礎に今日の平和と繁栄がある。改めて胸に深く刻みたい。
戦後日本は、東西対立期もポスト冷戦期も戦争に巻き込まれなかった。平和外交に加え、日米同盟と自衛隊の存在が抑止力となってきたことを忘れてはなるまい。
1954年に創設された自衛隊は、前身の警察予備隊以来、約1900人もの殉職者がいる。今春にも、陸上自衛隊機が北海道で墜落し、4人が命を落とした。
◆検討に値する9条改正
防衛省の敷地内には慰霊碑があり、毎年10月に政府が追悼式を行っている。国会議員の参列者が少ないことが気がかりだ。
安倍首相は、9条を維持したまま、自衛隊の根拠規定を加える憲法改正を提起した。長年の不毛な自衛隊「違憲論」に終止符を打つとともに、自衛官が誇りを持って厳しい任務に取り組めるようにする。そのような意図は理解できる。
自民党は、改正案の議論を進めている。「戦力不保持」などを定めた9条2項との整合性を取ることが欠かせない。熟議を重ね、説得力のある案をまとめてもらいたい。
自衛隊の重要性は近年、一段と高まっている。アジアの安全保障環境が悪化しているためだ。
北朝鮮は、核・ミサイル開発を急速に進展させた。中国は、日本領海に公船を再三侵入させ、南シナ海でも軍事拠点化を進める。
◆安保環境悪化に備えよ
北朝鮮の軍事的挑発を封じ込める。東・南シナ海での中国の「力による現状変更」を阻止する。そのカギは、やはり日米同盟だ。
日米両国は昨年、懸案のオバマ米大統領の広島訪問と、安倍首相の米ハワイ・真珠湾訪問を実現させた。大戦での恩讐おんしゅうを乗り越え、絆は格段に強固になった。
今年1月に就任したトランプ米大統領は、北朝鮮への影響力が強い中国に圧力強化を迫ってきた。南シナ海では「航行の自由作戦」を再開し、中国を牽制けんせいする。
トランプ外交の基本的な方向性は間違っていないが、場当たり的で、戦略性を欠く面もある。
安易な軍事力行使には自制を求める。自由や法の支配といった価値観を踏まえ、国際協調を促す。アジアの平和と秩序の維持へ、日本は米国にそうした働きかけを静かに続けることが大切だ。
懸念されるのは、日米韓の結束が求められる今、韓国の文在寅政権に歴史問題を蒸し返そうとする動きが出ていることだ。
鄭鉉栢女性家族相は、慰安婦問題の関連資料を国連教育・科学・文化機関(ユネスコ)の「世界の記憶」に登録しようとする民間団体を支援する、と表明した。
慰安婦問題の「不可逆的な解決」や、国連などでの「非難、批判の自制」を確認した2015年の日韓合意を無視するものだ。
徴用工など個人の請求権は消滅していないとする12年の韓国最高裁の判断以降、日本企業を相手取った訴訟が相次いでいる。今月も、光州地裁が2件で三菱重工業に賠償金の支払いを命じた。
両国間の請求権問題は1965年の日韓請求権協定で解決済みであり、疑問が残る判決だ。
◆反日の動きは要注意だ
12日には、ソウル、仁川両市内で徴用工像が設置された。日本大使館前への設置計画もある。徴用工を描いた反日的な映画「軍艦島」もヒットしている。民間の動きながら憂慮すべき事態だ。
今年は、盧溝橋事件、南京事件から80年となる。中国は、7月の盧溝橋事件の式典では対日批判を控えた。近年唱え始めた「抗日戦の起点は盧溝橋事件でなく満州事変」という主張の反映だろう。
歴史観の見直しには、盧溝橋事件と違って、日本軍の謀略で始まった満州事変の重要性を強調する狙いもうかがえる。中国が今後も歴史認識の問題で自制的な態度を保つのか、注視したい。
http://www.yomiuri.co.jp/editorial/20170814-OYT1T50098.html
(>>2以降に続く)