中国が軍事力の近代化を進める中、空軍が7月、3回にわたり轟(H)6爆撃機に沖縄県の沖縄本島と宮古島の間の宮古海峡を通過させた。
H6は台湾の東側を半周する形で台湾とフィリピンの間のバシー海峡も通過。中国側はこうした行動の「常態化」を予告しており、台湾の国防部(国防省に相当)も「将来は常態の活動となる可能性がある」としている。
中国軍は台湾海峡有事など、紛争海域での米軍の介入を阻止する能力を重視している。中国の狙いや戦略を探った。(台北 田中靖人)
旧ソ連から導入
H6の宮古海峡の飛行は7月13、20、24日の3回行われた。いずれも4〜6機で、20日には電子戦機や情報収集機を随伴。25日には1機が中台間の事実上の停戦ラインである台湾海峡の中間線の西側を飛行して、台湾海峡を縦断した。
台湾の国防部は21日、台南から離陸した戦闘機「経国」がH6と並行して飛ぶ写真を公開した。台湾メディアは飛来したのはH6Kだと報じている。現在、戦略爆撃機を多数運用しているのは米国、ロシアと中国だけだ。
台湾空軍の「空軍学術」の昨年2月の論文などによると、H6はソ連のTu16バジャーを中国国内で製造したもので、中国は1958〜59年にソ連から数機を受領し、自国での製造契約も結んだ。
バジャー自体は50年代の設計で、古いタイプの機体には自機防御用の機関銃の銃座を設けるなど、第二次大戦時の設計思想の影響がみられる。
中国の国産H6は西安飛機工業公司が製造して68年12月に初飛行し、69年に核爆弾B5の投下を任務とするH6Aが就役した。72年から大量生産が始まり、多い時で年間30機が製造された。
ミリタリーバランス2016年版によると、中国空軍は120機、海軍の航空兵は30機を保有しており、このほか空中給油機10機や電子戦機などの派生型もある。
全長約35メートルで最大飛行重量は約72トン、ジェットエンジン2基で、巡航速度は音速0・75、航続距離は6000キロという。H6Kは最新の改良型で、2007年にネット上に原型機の写真が投稿され、13年8月に就役した。
機体を軽量化して燃料タンクを大きくし、より推力の大きなロシア製エンジンに交換。これにより、航続距離は8000キロまで伸び、作戦行動半径は3500キロを超えるようになった。
また、レーダーを換装し、赤外線探知機やデータリンクシステムを搭載しているとの情報もある。H6Kの保有機数は現在、20機と推定されている。
巡航ミサイルが脅威に
最大の特徴は、主翼の下に射程1500〜2500キロとされる巡航ミサイル長剣(CJ)10を計6発懸架できることだ。
これにより、米領グアムを攻撃できるほか、日本のほぼ全土が射程に入る。15年11月には、4機が宮古海峡を通過し、西太平洋上を約1000キロ東側に進出して帰還した。
米ランド研究所が11年に発表した中国空軍に関する報告書は、約100機あるH6が将来、巡航ミサイル4発を懸架できるH6M25機とH6K75機に改修された場合、稼働率を75%とすれば、1回の任務で400発以上の巡航ミサイルを発射できると計算。
グアムのアンダーセン空軍基地や青森の三沢空軍基地に壊滅的な損害を与えることができると指摘している。
また、中国が実際にこうした攻撃を行わなくても、その能力があるだけで米軍は早期警戒管制機(AWACS)や地対空誘導弾パトリオットなどの防空システムを巡航ミサイル対処に投入せざるを得ず、例えば台湾防衛などの際に大きなコストになるため、米軍に負荷や圧力をかけることができる効果もある。
一方、16年末には、南シナ海で中国が主張する九段線に沿ってH6が飛行したことが米メディアに報じられた。イラン・イラク戦争中の1988年、イラクに輸出されたH6D4機が巡航ミサイル鷹撃(YJ)6を発射し、少なくとも14隻のタンカーや貨物船に損害を与えている。
http://www.sankei.com/premium/news/170811/prm1708110014-n1.html
(>>2以降に続く)