われわれは北朝鮮によるミサイル実験を正しい角度から見直す必要がある。確かに、懸念すべき問題ではある。しかし米国本土には差し迫った危険はない。
緊張が高まっている時期に、私は2度北朝鮮を訪問した。北朝鮮が核兵器実験を行い、それに対する制裁措置がとられた2013年春と、再び同じことが繰り返された2016年春に、北朝鮮の人々を訓練する、ある非営利団体の一員として私はそこにいた。
私は2度とも北朝鮮の人々が「もうたくさんだ、もうこんなことはさっさと終わらせてしまおう」と口にするのを聞いた。こんな痛ましい言葉は、北朝鮮政府がいかにうまく自国民を争いへと仕向けてきたかを反映している。
韓国人がテレビを囲んでいる写真は…
朝鮮半島でこれまで起きたささいな危機のときも、私は韓国にいたが、ものすごい「緊張感」を感じたことはない。韓国の人々がテレビに群がり、最新のミサイル発射や核実験に関するニュースを観ている写真を知っている人も多いだろう。
あの写真はほとんどソウル駅で撮影されているのだが、集まっている人は誰ひとり熱狂もしていなければ、緊張もしていない。というか、彼らはただ列車を待っているだけだ。サッカーの試合が放映されていれば、彼らはテレビに群がって視聴するだろう(そこにははるかに多くの人が集まるはずだ)。
しかし、そういったたぐいの映像が米国人の神経をとがらせているのだ。7月4日に北朝鮮は、大陸間弾道ミサイル(ICBM)「火星14」の実験を行った。専門家によると、ミサイルはアラスカ、あるいはハワイにまで届くとのことである。
3週間後、北朝鮮政府はミサイル実験を再び行った。さらに距離を伸ばし、米国本土の大部分を射程距離の範囲内とした。明らかに北朝鮮は核兵器を用いて米国を攻撃する技術を手にするところまで来ている。
それゆえ私は、ロサンゼルスに住んでいる人たちが「金正恩はロサンゼルスを核攻撃しようとしているの??どうなの?」と絶えず聞いてくるのも当然だと思う。
私は2017年の大半を、米カリフォルニア州で過ごしている。そこでは、多くの人が、私の北朝鮮旅行の話を聞くと、北朝鮮についての私の考えを知りたがる。
金正恩による集中的なミサイル実験の計画は、つねに大きなニュースになっている。テレビのニュースキャスターは長々とコメントをし、ドナルド・トランプ大統領もツイートをしている。しかし、私は心配しなくていいと話している。
北朝鮮に先制攻撃する能力はない
北朝鮮政府の挑発は非常に上手に計算されたものだ。実際の戦争には至らないよう計算して挑発をしているのである。北朝鮮の指導者は、もし軍事衝突になればほぼ確実に自分たちの国家が終わることをつねにわかっているからだ。
たとえば、米国海軍大学校のテレンス・ロエイリグ氏のような専門家は、北朝鮮の核兵器保有は主に戦争抑止のためだと考えている。2013年に施行された法律といくつかの公式の発表によると、北朝鮮政府は先制攻撃による脅しよりも、報復攻撃による脅しに重点を置いていることが明らかになっている。
昨年9月、北朝鮮は移動式のミサイル発射装置を披露した。その意味するところは、たとえ重要拠点が破壊されたとしても、移動式ミサイルを山中に隠しておけば破壊されずに済み、さらに山中から移動してミサイルを発射できるということだ。
しかし現実を見ると、金正恩は米国を先制攻撃する能力は有していない。北朝鮮は自分たちの兵器があまりにも小さすぎるため(そして、これが今後変わることはない)、核兵器で米国を攻撃することはできないとわかっている。だから、北朝鮮の核兵器で米国が壊滅することはありえないのだ。
が、そうはいっても、北朝鮮が開発した新兵器によって新たな危機が浮上している。
国民の「戦争準備態勢」を保つことは、戦闘的なレトリックを使い、多くの危機を繰り返し生み出すことにつながる。北朝鮮政府は現在、自国の状況についてより注意深くならなければいけない。北朝鮮は自らの脅し文句に忠実である、と米国に思わせてはならないのだ。
http://toyokeizai.net/articles/-/183183
(>>2以降に続く)