道路整備を中心としたインド北東部のインフラ設備への援助を日本が行うとして、8月3日、安倍政権とインドのモディ政権の意見が一致した。
日本の技術が北東部に入ることでインドは東南アジア進出への足掛かりを作ることができ、同時に、影響力を強める中国へのけん制の狙いがあるとみられている。
◆戦略上重要な東南アジアへのゲートウェイ
インドは北東部に係争地を抱えている。中国と領有を争い、インドに亡命するダライ・ラマ14世の訪問が火に油を注ぐ形となって注目されたアルナーチャル・プラデーシュ州だ。
今回の東北部インフラ支援に対し、インド側は「北東部のインフラ整備は最優先」であると述べている。これについてインドのSwarajya誌は、ジャワハルラール・ネルー大学の中国学専門家、Alka Acharya教授の意見を掲載。
Acharya教授は、中国軍が侵攻した6月末の事件(Dokalam incident)が理由となっていると見て、「インドは長い間その地域にある代替エネルギーへの投資をもくろんできたが(中略)この事件で、緊急事態であるという空気が生まれた」と語る。
北東部諸州はインドと東南アジアを陸路で結ぶゲートウェイである。ミャンマーやバングラデシュとの国境貿易の拠点としても使用でき、北東部開発はインド政府にとって大きな意味を持つ。
◆インドー中国の衝突悪化か?
インド政府に対して大きな意味を持てば、それを面白く思わないのが、衝突した中国である。
中国には、巨大プロジェクト一帯一路(One Belt, One Road, OBOR)構想があるが、インドは特に一帯一路の一環となっている中国・パキスタン経済回廊が係争地のカシミール(インド、西北部)を通るとして異議を唱え、5月に行われた一帯一路国際協力サミットフォーラムにも参加していない。
この大プロジェクトは、昨年7月、エコノミスト誌が「Our bulldozers, our rules」と批判。中国が独自のルールで進めようとしているプロジェクトだとみる方面もある。
それを踏まえて、ディプロマット誌は、Tridivesh Singh Maini氏とSandeep Sachdeva氏の寄稿を日本とインドの話し合いが行われる一日前に掲載。
両氏は「日本はインフラ投資を通じて、インド北東部における存在をさらに大きなものにすることを考えるべきである。(中略)そうすることで、中国に鮮明なメッセージを送ることができる。北東部は北京によって独裁されることはない、というニューデリーの政策を見せることができる(後略)」と書く。
◆北京へ送られた“メッセージ”
日本のインフラ支援が約束された今、両氏の書くように、“メッセージ”は送られた。
安倍首相は一次内閣の時から、インドとの関係促進に力を入れている。インドは日本の援助を得て、東南アジアとの結びつきを強めていくだろう。今回の動きに中国は何を思ったか、インド・中国関係は緊張感がさらに高まる。
Text by 西尾裕美
http://newsphere.jp/world-report/20170804-4/