北朝鮮が7月28日深夜に大陸間弾道ミサイル(ICBM)を発射しました。これをみても、北朝鮮が拉致被害者の帰国をめぐる交渉でも非常に強い立場で臨む状況ができたとみてよいと思います。
被害者を帰国させるために、一層の交渉の工夫や交渉の強化が必要になってくるでしょう。
安倍晋三首相は本当に素直に被害者を取り戻したいと思っていらっしゃる。でも、外務省が中心になって動いている限りは被害者の救出は…。外務省をすべて批判するつもりはないのですが、外務省は国交正常化のほうが仕事だと考えている。
なぜ私がそう考えるのか。それは「日朝平壌宣言」を読めば分かります。小泉純一郎首相(当時)は2002年に訪朝し、金正日総書記と宣言に署名しました。
しかし、宣言は拉致被害者の救出どころか、北朝鮮が拉致を認めて謝罪すればそれ以前の拉致問題は不問にして終局する、拉致問題を収束させて国交正常化を図る、という日本政府の方針がはっきり読みとれます。
平壌宣言で北朝鮮側は「ミサイル発射のモラトリアムを03年以降もさらに延長していく」と表明しています。にもかかわらず、06年7月5日にミサイル7発を発射しました。
2カ月後に第1次安倍内閣で拉致担当の首相補佐官を拝命したとき、ミサイル発射で宣言は実質的に無効になったと考え、政府が新設した拉致問題対策本部では拉致被害者の救出に的を絞って活動しました。
ところが、14年5月に平壌宣言に基づく形で日朝間でストックホルム合意が結ばれました。外務省はまたしても国交正常化のための交渉を始めたんですね。
ストックホルム合意で拉致問題は、遺骨の問題や日本人妻の問題と同列に扱われています。しかも、拉致問題に関し「調査の過程において日本人の生存者が発見される場合には、その状況を日本側に伝え、帰国させる方向で去就の問題に関して協議し…」とある。
これは「たとえ拉致被害者がいても帰しませんよ」と言っている文言です。必要なのは原状回復であって、「帰国させる方向」ではなく「帰国させる」でなければおかしい。
日本政府が北朝鮮と交渉を続ける主題は国交正常化。拉致被害者の救出は問わないことをうたった平壌宣言から、ストックホルム合意へと続く基本方針に従って政府は動いてきた。これが実態だとみています。
私自身、政府で拉致問題を担当した約3年間、外務省とやりとりを続け、国交正常化に向けて進みたいと言っていた外務省を止めていました。政府内のせめぎあいも、救出が遅れた一つの原因といってもいい。
国交が正常化したら被害者が帰ってくるという人もいます。でも、北朝鮮は、拉致した人は自分の獲物だと思っているから、国交正常化しても自分の国のものを返すということはあり得ないんです。
今年3月に質問主意書で拉致問題に関する政府の見解を確認しました。政府は答弁書で拉致問題を「政府の最重要課題の一つと位置づけ、すべての拉致被害者の一刻も早い帰国の実現等に向けて最優先で取り組んでいるところである」としました。
被害者が帰ってこなければ国交正常化はないことが明示されたのです。
私も拉致問題担当相を経験しましたが、相手は独裁国家で、すべて金正恩朝鮮労働党委員長の決断になりますから、大臣だと非常に難しい。こちらも首相直轄で交渉する方がやりやすいという実感を持っています。
その意味で、首相直轄の拉致救出チームを設置してほしいとずっと主張してきました。ノウハウがある民間人が入ってもいい。とにかく官民一体で救出にあたっていただきたい。
これまで拉致問題に取り組んできて、いつもぶつかるのが憲法なんです。現行憲法は国民の権利については書いてありますが、国家の概念が抜けていて、国家が国民を守るとか、国土を守るとか、そういったことはどこにも書かれていません。独立国家の憲法になっていないんです。
http://www.sankei.com/politics/news/170801/plt1708010005-n1.html
(>>2以降に続く)
インタビューに答える日本のこころの中山恭子代表=19日午後、参院議員会館(酒巻俊介撮影)