来年2月に開幕する平昌五輪に関して、最近の韓国メディアの関心事はもっぱら「南北関係」に集中している。韓国・文在寅(ムン・ジェイン)大統領が6月に投げかけた「南北共催」と女子アイスホッケーの「南北統一チーム」の報道ばかりが目につく印象だ。
北朝鮮との融和のためにスポーツ交流拡大などの対話を主張する文大統領の姿勢に対し、北朝鮮は7月1日に「よく言えば天真爛漫で、悪く言えば絶望的」(中央日報)などと批判し、拒否の姿勢を示す。
緊迫度を増す朝鮮半島情勢を受けてなのか、中央日報は戦争が勃発すれば「開戦初日にソウル首都圏だけで30万人の民間人の死傷者が発生する可能性がある」などと報じている。
北朝鮮が大陸間弾道ミサイル「火星14」を試験発射に初めて成功した7月4日の前日、文在寅大統領は大統領府で国際オリンピック委員会(IOC)のトーマス・バッハ会長と会談し、平昌五輪に北朝鮮選手団が参加できるように協力を要請した。
中央日報によると、この席上、韓国女子アイスホッケー代表の選手23人を維持したうえで、5〜10人の北朝鮮選手を追加で参加させる案を推進することになった。
文化体育観光部長官が6月20日に統一チーム構想を明らかにすると、政治的な考慮のために五輪出場を目標に努力してきた選手が「脱落するのは不当だ」と批判する世論が強まっていた。
韓国の代表人数をそのままにして批判を緩和し、北朝鮮選手も参加させるようという“玉虫色”の解決策だ。
冬季スポーツに弱い北朝鮮は、今のところ平昌五輪の出場権を1種目も獲得できていない状況。9月にドイツで開催されるフィギュアスケートの五輪予選会でペアに出場する1組が唯一期待できる存在だという。
韓国側の提案に関して、北朝鮮は当初から否定的だった。
北朝鮮の張雄(チャン・ウン)IOC委員は世界テコンドー選手権の視察のために訪韓した6月25日、千葉・幕張メッセで1991年に開催された世界卓球選手権で統一チームが構成された例を挙げ、
その際は「南北会談を22回行い、5カ月もかかった」との例を挙げながら、スキー競技の一部を北朝鮮の馬息嶺スキー場で共同開催する案に「(協議する)時期が遅れた」と現実的に厳しいとの認識を示した。
その後、張雄委員は米国営放送ボイス・オブ・アメリカとの7月1日の電話インタビューで、現在の南北関係では「ばかげた話」と述べたという。
さらに「南北関係を、政治が優先視される前に体育で解決していくというのは天真爛漫なことこの上なく、期待をし過ぎている」と主張したという。3日の中央日報が伝えた。
かなり韓国を侮辱したコメントのように聞こえるが、それでも文大統領は7月7日、G20のために訪問したドイツで講演し、条件が整い、南北の緊張緩和の契機になるなら「いつでも金正恩・朝鮮労働党委員長と会う用意がある」と述べた。
平昌五輪も含めて対北政策には理想が優先している文政権だが、五輪一つとっても北朝鮮の方が一枚上手だ。
中央日報は8日、「北が韓国首都圏砲撃なら一日に30万人死傷も」と題し、米ニューヨーク・タイムズが6日に米民間研究機関の報告書に基づいて作成した朝鮮半島の戦争シナリオを報じた。
それによると、韓国の軍事施設が照準攻撃されれば、数時間以内に軍人約3000人、民間人を狙う場合は3万人近くが死亡すると予想されるとした。さらに戦争開始初日に首都圏だけで民間人は30万人が犠牲になる恐れがあるとした。
戦争が勃発すれば、攻撃を中断しにくい全面戦争につながりやすいというのが専門家らの分析だという。
これが五輪開幕前に現実となれば、南北共催どころではない。対北政策の立て直しを求める韓国メディアもある。文政権は一体どこを見ているのだろうか。
http://www.sankei.com/premium/news/170720/prm1707200002-n1.html
2002年、釜山でのアジア大会のように、平昌五輪で「南北統一チーム」が結成されるのか(AP)