韓国経済の屋台骨である外需への不安が高まっている。6月末の米韓首脳会談ではトランプ大統領から、米国の貿易赤字削減への努力を求められ、両国が結ぶ自由貿易協定(FTA)の見直しが現実味を帯びてきた。それに加えて、韓国へのTHAAD(高高度防衛ミサイル)配備の余波で中国人観光客が姿を消し、中国人客で潤っていた美容整形医の廃業が相次ぐ恐れも指摘されている。韓国は、米中の大国の間をうまく立ち回ってきたつもりかもしれないが、外交の現実はそう甘くはなかった。
自動車業界に矛先か、トランプ政権
6月末に行われた米韓首脳会談は、米国が韓国に対する不満をぶつける場と化した。
2012年3月の米韓の自由貿易協定(FTA)の発効後、韓国に対するモノの貿易赤字が膨らんだことを問題視し、トランプ米大統領は会談後「よい協定ではなかった」と主張。記者会見では、FTA締結後に米国の貿易赤字が「110億ドル(約1兆2300億円)以上増えた」と強調し、赤字削減対策を要求した。
韓国側が、とりわけ困ったのは、同国の経済を支える自動車産業に矛先が向けられたことだ。ロス米商務長官も「非関税障壁の存在」を指摘。燃費規制のあり方などに注文をつけた形だ。
とはいえ、韓国の自動車産業はいま、苦しい市場環境にさらされているだけに、「はい、わかりました」と簡単には受け入れられない状況にある。
米軍のTHAADの韓国配備をめぐり中国での販売が激減しており、そこにきて、米国からも事実上の輸出制限がかけられれば、大打撃を被る。
「尖閣」めぐる 不買運動より影響大
現代・起亜自動車の上期の中国での販売台数は42万9000台で前年同期比47%も減少。韓国・朝鮮日報(日本語電子版)によると、現代・起亜自動車ブランドの3〜5月の中国販売の減少率は約50%〜65%程度で、これは尖閣諸島(沖縄県石垣市)の国有化をめぐる中国の不買運動で影響を受けた日本メーカーブランドの減少率よりも大きいという。中国に進出した韓国の部品メーカーも打撃を受け、工場の稼働率が落ちている。
トランプ氏は、なぜ韓国に圧力をかけたのか。
一つは「米国第一」を掲げる現政権の立場を明確化する意味があるが、韓国経済新聞(電子版)は専門家の見方として、THAAD配備や北朝鮮に対する毅然とした態度を求めている韓国への「警告のカード」というメッセージとしての意味がある、と伝えた。
THAAD配備で中国からいやがらせを受けている韓国だが、米国からも圧力を受け、まさに板挟みだ。
免税店閉店、美容整形外科廃業
しかも、中国の韓国への圧力はやむ気配はない。
直撃を受けている観光業界では、空港の免税店の閉鎖に踏み切るところがでてきた。朝鮮日報によると、免税店業者のハンファギャラリアが済州空港で運営する免税店を8月末に閉店するという。今年4〜5月のシーズンに済州島の来た中国人観光客は前年同期より9割も減り、売り上げが大きく落ち、賃貸料を払うのも困難な状態になっていた。
また韓国経済新聞(電子版)は、同業同士の競争激化に加えて、中国人客の利用が減ったことで、経営危機に陥る美容整形医が増えていると報じた。
今年1〜4月に廃業した美容整形外科の半分は、ソウル江南区の病院だったという。同区には、医院が集中するエリアがあり、病院規模を縮小するところもある。手術費用のディスカウントも始まっており、中国人患者の急減が背景にあるとの医療関係者の声を紹介した。
THAAD配備と北朝鮮情勢の緊迫化を背景に、米中との関係がぎくしゃくする韓国。大国との外交の溝が、外需を中心とした経済の足をひっぱっりつつある。
http://www.sankei.com/west/news/170711/wst1707110005-n1.html
2017.7.11 05:30