米国が4月7日、化学兵器使用が疑われるシリアの空軍基地を59発の巡航ミサイルで攻撃した。しかも米中の首脳会談の最中に、である。
シリアではロシア、イランがアサド政権、米国が反体制派を支援していた。当初、ドナルド・トランプ米政権もIS(イスラム国)掃討を優先し、アサド政権存続を容認する立場だった。だが、「レッドライン(超えてはならない一線)」を越えた場合、米国単独での武力攻撃も辞さない姿勢を内外に示した。
この米国の強い意思が北朝鮮、中国、ロシアに与えた衝撃は大きい。米国は、北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長に「6回目の核実験」「ICBM(大陸間弾道ミサイル)発射」を強行しないよう求めている。
北朝鮮が「レッドライン」を越えた場合、米国はぎりぎりまで外交努力はするだろうが、躊躇(ちゅうちょ)なく、攻撃に踏み切るだろう。日米は北朝鮮政策に関し、戦略目標(レッドライン)の共有を緊密に図っておく必要がある。
2月10日に安倍晋三首相−トランプ米大統領との間で行われた初の日米首脳会談では、日米共同声明が発せられ、「米国の核および通常戦力の双方を日本の防衛にコミットする」「北朝鮮による核・弾道ミサイル開発、挑発行動へは強く反対する」などが盛り込まれた。
これは、わが国が抑止の効かない北朝鮮の核・弾道ミサイルの脅威にさらされ続けていることを意識したものだ。
日本はロシア、中国という核大国に囲まれ、さらに北朝鮮の核・弾道ミサイルの脅威が現実化している。にもかかわらず、“タテマエ”的には「持たず、作らず、持ち込ませず」の「非核3原則」を標榜(ひょうぼう)している。懲罰的核抑止力は日本にはない。
日本は唯一の被爆国であり、核を忌避し、議論することすらタブー視してきた。だが、非核3原則のうち、少なくともこれまで曖昧にしてきた「持ち込ませず」は破棄し、具体性のない米国の核依存体質から転換するときである。
まず、日本は共同声明の中で確認した米国の核の関与を受け入れ、その懲罰的核抑止機能が発揮できる環境整備に着手すべきだ。そして将来、核保有していないNATO(北大西洋条約機構)諸国が米国と結んでいるニュークリア・シェアリング(核兵器の共有)政策に方向転換すべきである。
その第1歩が日本は弾道ミサイルに対する拒否的抑止機能の充実で、現在のイージスシステムとPAC3による2層体制の改善を図るべきだ。同時に日米同盟の「矛」の役割である“即応反撃”が実行できるよう「敵基地攻撃能力」の整備を進めるべきである。
具体的には、隠蔽されたミサイル基地や指揮組織などの位置情報を日本独自で警戒監視する機能、長射程ロケットによる対地攻撃力、長距離巡航ミサイルなどが必要になる。こうした「即応反撃力」を整備しなければ、北朝鮮の弾道ミサイル発射は止まない。
■火箱芳文(ひばこ・よしふみ) 1951年、福岡県生まれ。74年3月、防衛大学校(18期生)卒業後、陸上自衛隊に入隊。第3普通科連隊長(名寄)、第1空挺団長(習志野)、第10師団長(名古屋)、防大幹事(副校長、横須賀)、中部方面総監(伊丹)を歴任し、2009年3月に第32代陸上幕僚長に就任。東日本大震災に陸幕長として対応した。11年8月に退官。現在三菱重工業顧問、国家基本問題研究所理事、偕行社理事、筑波大非常勤講師、全日本柔道連盟常務理事などを務める。柔道5段。著書に『即動必遂』(マネジメント社)。
http://www.zakzak.co.jp/society/politics/news/20170510/plt1705101530002-n1.htm
http://www.zakzak.co.jp/society/politics/news/20170510/plt1705101530002-n2.htm
政府は巡航ミサイル導入に向けた本格的検討に入った(ロイター)
シリアではロシア、イランがアサド政権、米国が反体制派を支援していた。当初、ドナルド・トランプ米政権もIS(イスラム国)掃討を優先し、アサド政権存続を容認する立場だった。だが、「レッドライン(超えてはならない一線)」を越えた場合、米国単独での武力攻撃も辞さない姿勢を内外に示した。
この米国の強い意思が北朝鮮、中国、ロシアに与えた衝撃は大きい。米国は、北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長に「6回目の核実験」「ICBM(大陸間弾道ミサイル)発射」を強行しないよう求めている。
北朝鮮が「レッドライン」を越えた場合、米国はぎりぎりまで外交努力はするだろうが、躊躇(ちゅうちょ)なく、攻撃に踏み切るだろう。日米は北朝鮮政策に関し、戦略目標(レッドライン)の共有を緊密に図っておく必要がある。
2月10日に安倍晋三首相−トランプ米大統領との間で行われた初の日米首脳会談では、日米共同声明が発せられ、「米国の核および通常戦力の双方を日本の防衛にコミットする」「北朝鮮による核・弾道ミサイル開発、挑発行動へは強く反対する」などが盛り込まれた。
これは、わが国が抑止の効かない北朝鮮の核・弾道ミサイルの脅威にさらされ続けていることを意識したものだ。
日本はロシア、中国という核大国に囲まれ、さらに北朝鮮の核・弾道ミサイルの脅威が現実化している。にもかかわらず、“タテマエ”的には「持たず、作らず、持ち込ませず」の「非核3原則」を標榜(ひょうぼう)している。懲罰的核抑止力は日本にはない。
日本は唯一の被爆国であり、核を忌避し、議論することすらタブー視してきた。だが、非核3原則のうち、少なくともこれまで曖昧にしてきた「持ち込ませず」は破棄し、具体性のない米国の核依存体質から転換するときである。
まず、日本は共同声明の中で確認した米国の核の関与を受け入れ、その懲罰的核抑止機能が発揮できる環境整備に着手すべきだ。そして将来、核保有していないNATO(北大西洋条約機構)諸国が米国と結んでいるニュークリア・シェアリング(核兵器の共有)政策に方向転換すべきである。
その第1歩が日本は弾道ミサイルに対する拒否的抑止機能の充実で、現在のイージスシステムとPAC3による2層体制の改善を図るべきだ。同時に日米同盟の「矛」の役割である“即応反撃”が実行できるよう「敵基地攻撃能力」の整備を進めるべきである。
具体的には、隠蔽されたミサイル基地や指揮組織などの位置情報を日本独自で警戒監視する機能、長射程ロケットによる対地攻撃力、長距離巡航ミサイルなどが必要になる。こうした「即応反撃力」を整備しなければ、北朝鮮の弾道ミサイル発射は止まない。
■火箱芳文(ひばこ・よしふみ) 1951年、福岡県生まれ。74年3月、防衛大学校(18期生)卒業後、陸上自衛隊に入隊。第3普通科連隊長(名寄)、第1空挺団長(習志野)、第10師団長(名古屋)、防大幹事(副校長、横須賀)、中部方面総監(伊丹)を歴任し、2009年3月に第32代陸上幕僚長に就任。東日本大震災に陸幕長として対応した。11年8月に退官。現在三菱重工業顧問、国家基本問題研究所理事、偕行社理事、筑波大非常勤講師、全日本柔道連盟常務理事などを務める。柔道5段。著書に『即動必遂』(マネジメント社)。
http://www.zakzak.co.jp/society/politics/news/20170510/plt1705101530002-n1.htm
http://www.zakzak.co.jp/society/politics/news/20170510/plt1705101530002-n2.htm
政府は巡航ミサイル導入に向けた本格的検討に入った(ロイター)