SGを3度制覇し、07年MVPにも輝いたボートレーサー魚谷智之(49=兵庫)が、電撃引退することが分かった。11日から16日まで走った地元尼崎の一般戦がラストランとなり、29年7カ月の選手生活にピリオドを打った。
あまりにも早すぎる幕引きだ。ラストレースは16日の地元尼崎最終日11R。1枠の魚谷は1着で走り終えると安堵(あんど)の表情を浮かべた。
決断に至った経緯は単純明快だった。「49歳で辞めようと思っていたんですよ。たまたまタイミングが合って、今年がちょうど良かった。手前でも良かったけど、少し物足りない気がしたし、伸ばすと続けそうな気がした。あとクオリティーが落ちていることは認めていて、トップを狙えなくなった。それはお客さんに失礼だと思ったので」。決意を固めて向かった最後のレースも、ファンの信頼に応えようとする、例えようのない緊張感に包まれていた。
49歳の引退を惜しむ声があって当然だ。SGは通算3度優勝。特に年間でSG連続Vを果たした07年には、最優秀選手(MVP)、記者大賞タイトルに加えて、日刊スポーツ制定ボートレース三賞殊勲賞も獲得。その後もSG、記念戦線で活躍を続けた。
特に地元尼崎では無類の強さを誇った。通算88度の優勝のうち31度が地元。“夏男”のイメージが強く、8月恒例のお盆戦「オール兵庫王座決定戦」では3連覇を2度含む9度優勝。19年から3年間、兵庫支部長の重責も務め、センタープールの大看板レーサーとして一時代を築いた。
現役生活で最も印象に残っているレースを尋ねると「何年かしたら、あったな。そう思うことがあるかもしれないけど、ないですね。例えばSGで優勝した時も何日かしたら次のレースを走っている。浮かれていたらやっていけない世界なので、どんどん上書きされていたんですよ。良かったことは忘れるようにやっていた。強いて言えば、最後の11Rがすごくうれしかった。めっちゃ緊張したけどね」と振り返った。レースに向き合う姿勢は常にストイック。納得がいくまで理想を追い求め、結果を残したミスターセンタープールが、カポックを脱いだ。
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日刊スポーツ