2022年02月08日 05時15分
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大誤算の深層≠ニは――。北京五輪のスキージャンプ混合団体(7日、国家スキージャンプセンター)で、高梨沙羅(25=クラレ)が1回目でスーツ規定違反によりまさかの失格。メダル獲得が期待された新種目だったが、103メートルの大ジャンプが幻となり日本は4位に終わった。選手の戦闘服≠ヘ、1メートルでも遠くへ飛べるように公的機関やメーカーなどが共同で研究と開発を重ねてきた。その一方で、ジャンプ関係者からは競技の「穴」を指摘する声が上がっている。いったい、どういうことなのか?
悔やんでも悔やみきれない結果になってしまった。日本のトップバッターを任された高梨は1回目、103メートルの大ジャンプで124・5点をたたき出した。しかし、2番手の佐藤幸椰(雪印メグミルク)が飛んだ後に自身のスーツ違反が判明。まさかの失格により、ポイントは「ゼロ」になってしまった。
それでも佐藤、伊藤有希(土屋ホーム)、前日の男子ノーマルヒルで金メダルを獲得した小林陵侑(同)が得点を重ねて8位で2回目に進出。その2回目で高梨は98・5メートルと意地を見せたが、着地後にうずくまり、こみ上げる感情を抑えきれなかった。最終的に日本は猛追も及ばず4位。今大会からの新種目で表彰台も見えていただけに、ショッキングな結果となった。
鷲沢徹コーチによると、高梨はスーツの両太もも周りが規定より2センチ大きかったという。規定では「ジャンプスーツはすべての箇所で選手のボディーにぴったり合うもの」とされ、最大許容差は「直立姿勢で男子は1〜3センチ(女子は2〜4センチ)」。また、測定の際には「両腕はヒジを伸ばし、ボディーから30センチ離す。両足は伸ばした状態で40センチ開く」と、かなり細かく設定されている。
こうような厳格な規定にのっとって、ハイパフォーマンススポーツセンターや全日本スキー連盟、ミズノなどが共同で研究、開発を行い、選手が1メートルでも遠くに飛べるような戦闘服≠支給している。
1998年長野五輪団体金メダルで日本選手団の原田雅彦総監督は今シーズン前、本紙の取材に「生地のつなぎ目をうまくカットすることによって揚力を得るように開発したもの。選手たちは最先端のスーツを着ている」と説明。さらに本番に向けて「(過去の違反を)チームでデータとして集めて失敗しないスーツ作りも進んでいる」と自信を見せていた。
一方で、ジャンプ関係者の間では競技の「穴」が指摘されていた。昨年2月のW杯では高梨がスーツ違反で失格となり、翌日の試合で優勝するケースがあった。連盟幹部が驚くべき舞台裏を明かす。
「実はその2試合でスーツは変えていなかった。結局、人が測定するので多少の誤差が毎日のようにある。そういうことについては(国際スキー連盟の)役員と『ルールをもうちょっとしっかりしろよ』という議論になるけど、難しいところ」
つまり、スーツそのものには厳格な規定を設けておきながら、運用面には大きな欠陥≠抱えているということだ。
世界最高レベルの戦いではぎりぎりのところで勝負しているだけに、スーツ違反は決して珍しいことではない。ただ、この日は高梨だけでなく、オーストリア、ドイツ、ノルウェーも同じ違反で合計5人の失格者が出る前代未聞の異常事態。高梨に限って言えば、5日の個人ノーマルヒルと同じスーツを着用していたという。
生地の伸縮や体形の変化の可能性があるとはいえ、どこか釈然としない印象を残したことは確か。スーツの規定を巡っては、今後に再考の余地がありそうだ。