2021年7月25日
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2016年末にキズナアイが現れて以来、独自の文化を築き上げてきたバーチャルユーチューバー(VTuber)。最近ではTVアニメ『100万の命の上に俺は立っている』に、にじさんじ所属の樋口楓と静凛が出演、さらに『探偵はもう、死んでいる。』(ともにTOKYO MXほか)にはホロライブ所属の白上フブキと夏色まつりが出演し、大きな話題を呼んでいる。
アニメファンにとっても身近になりつつあるVTuberだが、その歩みは生易しいものではなかった。数年前まで、オタクたちの間でアンタッチャブルな存在として扱われていたことは記憶に新しい。その原因を作ったのが、2019年に放送されたTVアニメ『バーチャルさんはみている』(TOKYO MXほか)だ。
同アニメは、『ニコニコ動画』でお馴染みのドワンゴが製作を務めた意欲作。OP・EDテーマには、きゃりーぱみゅぱみゅの音楽プロデューサーとして知られる中田ヤスタカが楽曲を提供。加えて『エヴァンゲリオン』シリーズの監督・庵野秀明にアイデア協力を求めるなど、有名クリエイターを集めたことで話題を呼んでいた。
もちろん出演者も豪華極まりなく、当時人気絶頂だったミライアカリ・電脳少女シロ・月ノ美兎・『ヒメヒナ』・猫宮ひなた・『ゲーム部プロジェクト』など、総勢30名超のVTuberたちがそろい踏み。さらに歌手の小林幸子が「バーチャルグランドマザー」として出演するなど、話題性にあふれた布陣となっており、多くのファンが名作になることを確信していたようだ。
VTuber文化を後退させた“問題作”
しかしいざフタを開けてみると、そこに広がっていたのは地獄絵図だった。まず問題だったのは、番組の方向性が迷走していた点。各話ごとにさまざまなコーナーを寄せ集めた構成となっていたのだが、そのコーナーは「電脳少女シロがうんちくを披露」「バーチャルグランドマザー小林幸子が日本語の豆知識を解説」といったもので、誰が得をするのか分からない内容だったのだ。
またVTuberたちはそれぞれ優れたトークスキルを持っていたが、それが発揮されることがなかった点も大問題。おそらく脚本の大部分をアニメスタッフが用意していたため、脚本に従って滑りまくる様が映し出された。
何よりアニメファンにとっては、見た目の安っぽさも悪印象を植え付けることに。劇中では微妙なクオリティーのCG映像により、奇想天外なストーリーが繰り広げられるのだが、誰もが「茶番」だと感じてしまったようだ。
さらにVTuberファンを喜ばせるためか、全編を通して内輪ネタが多かった印象もある。もし内輪ネタに振りきれていればコアな人気を得ていたかもしれないが、その方針が中途半端だったことが仇に。マニアウケも一般ウケも外してしまい、ひたすらにネット上でバッシングを受け続ける1クールとなった。リアルタイムで惨劇を見守っていた人々は、当時を振り返り、《VTuberが恥ずかしいコンテンツみたいになったのが本当きつかった》《これ見たせいでVにハマるの遅れたわ》《Vってこんなもんか、みたいな感じで悪い意味での宣伝にしかなってなかった》などと語っている。
ちなみにアニメーション制作を担当した会社・リドは、同作終了後まもなく解散。Blu-rayにはライブイベントの優先券が付いていたにもかかわらず、第1巻から爆死するハメになったという。
新しいコンテンツに失敗は付き物とはいえ、ここまでの大コケを記録することは中々珍しい。今後VTuber文化がどれだけ発展しても、伝説的な黒歴史として語り継がれることだろう…。
文=大上賢一