アテネ名実況・刈屋富士雄さんが語る、五輪「開催すべき」理由…苦難乗り越えた経験は、日本の未来への架け橋になる
1/27(水) 5:00配信
https://news.yahoo.co.jp/articles/6ebaaa3fc77f25871104b2f612e025d5f402cf1e
新型コロナウイルスの世界的な感染拡大に歯止めがかからない中、1年延期された東京五輪は7月23日に開幕を迎えようとしている。国際オリンピック委員会(IOC)のトーマス・バッハ会長は予定通りの開催を強調するが、各メディアの世論調査では「中止」「再延期」を合わせた“見直し派”が80%を超えている。夏冬通算8大会で五輪実況を務めた“ミスター・ゴールドメダルアナ”こと、元NHKアナウンサーの刈屋富士雄さん(60)は、こんな状況だからこそ、あえて開催への思いを訴えた。
国内世論の8割以上がコロナ禍での五輪開催を望まない現況にあって、私はあえて開催すべきと主張したい。
延期決定前の昨年3月は、世界から選手を集めるのは不可能という状況が見えた時点で返上すべきと思っていた。しかし、日本は「1年間、待ってくれ」と世界に訴え、待ってもらった。ならば、開催に向けて最大限の努力をする責任がある。世界に対する責任、次の世代に対する責任だ。
残念で仕方がないのは、人の心を動かす努力が全く見られないこと。安心・安全に開催できるということへ、最も肝心な根拠の説明もない。国民の最優先はコロナであり、「淡々と準備を進める」では説得力がなく、何の熱も伝わらない。世界の人たちも行く価値がないと思うだろう。これで中止、返上となれば、日本は国際的な信用を失い「この程度か」という目で見られる。そんな情けない国ではないはずだ。
8年前の2013年。東京都は招致活動に成功し、1964年大会以来となる夏季五輪を日本に持ってきた。国民の負担軽減に、既存の施設も活用した「世界一コンパクトな五輪」「世界一カネのかからない五輪」とうたったが、今や乖離(かいり)した形になったのは周知の事実。追加費用もかさみ、開催費総額も3兆円を超えるともいわれている。
皮肉にも余計な“ラッピング”が取れたことで五輪の「真の核」が見えてきた。トップアスリートによる真剣勝負。一瞬にして永遠のきらめき、これこそが真の五輪の姿だ。目先の金銭的な恩恵や損得に目がくらみ、本来の主役は選手であり、未来の若者のための五輪を忘れていたのではないだろうか。
実況中継のアナウンサーを目指したきっかけは、小学生の時にテレビで見た、68年メキシコ市五輪陸上男子200メートル表彰式の衝撃的な光景だった。金メダルと銅メダルの黒人選手が黒い手袋を突き上げ、人種差別へ無言の抗議を世界に訴えた。真剣勝負の美しさはもちろん、勝負を超えたものも五輪にはあると感じた。04年アテネ五輪の体操男子団体金メダルの中継では、私が発した「栄光への架け橋」に感動し、スポーツアナウンスを目指した人がたくさんいる。また、体操を始めた人も多い。
18年平昌五輪スピードスケート女子500メートルで金メダルを争って敗れた地元の李相花を、小平奈緒が肩を抱いたシーンに世界中の人々が感動し、スポーツの持つ力を感じた。何よりも韓国の若者たちが、李相花は金を取れなかった選手でなく、素晴らしいレースをした選手だと語っている。
私たちの64年東京五輪も多くの若者に影響を与えた。青々とした芝生のピッチで、満員の中でサッカーのリーグをしようと夢見た若者らが大人になり、約30年後にJリーグが誕生した。五輪の特別な舞台でしか見られない選手たちのきらめきが、その国の未来を変えていく。まさに心と魂で受け継ぐ“無形のレガシー”となる。
今の日本がすべきことは総力を挙げて約200の国・地域、約1万人の選手らと世界に対し、五輪はできるんだと説明すること。五輪予選をできる限界の時期が5月と逆算し、4月30日までに世界に大々的なプレゼンを行ってほしい。半分を超える国・地域が来るなら開催し、100以下の国・地域しか来ないなら、もはや返上するしかない。
もし観客数制限があるなら、観客は次の世代を担う子供や若い人たちにしてほしい。何十年も後の世界で何かしらの困難が起きた際、東京五輪を観戦した若者たちが「あの時、日本が五輪を開いたじゃないか」「あの選手の活躍を思い出そう」と振り返ってくれるはずだ。
完璧な形で行われた五輪は過去にはない。完璧でなくてもできる、完璧でなくてもその時に参加できるトップアスリートらで実現できるというメッセージを日本から発信してほしい。ここで簡単に白旗を掲げちゃいけない。それが私の「五輪開催すべし」という主張だ。(元NHKアナウンサー、解説主幹)
1/27(水) 5:00配信
https://news.yahoo.co.jp/articles/6ebaaa3fc77f25871104b2f612e025d5f402cf1e
新型コロナウイルスの世界的な感染拡大に歯止めがかからない中、1年延期された東京五輪は7月23日に開幕を迎えようとしている。国際オリンピック委員会(IOC)のトーマス・バッハ会長は予定通りの開催を強調するが、各メディアの世論調査では「中止」「再延期」を合わせた“見直し派”が80%を超えている。夏冬通算8大会で五輪実況を務めた“ミスター・ゴールドメダルアナ”こと、元NHKアナウンサーの刈屋富士雄さん(60)は、こんな状況だからこそ、あえて開催への思いを訴えた。
国内世論の8割以上がコロナ禍での五輪開催を望まない現況にあって、私はあえて開催すべきと主張したい。
延期決定前の昨年3月は、世界から選手を集めるのは不可能という状況が見えた時点で返上すべきと思っていた。しかし、日本は「1年間、待ってくれ」と世界に訴え、待ってもらった。ならば、開催に向けて最大限の努力をする責任がある。世界に対する責任、次の世代に対する責任だ。
残念で仕方がないのは、人の心を動かす努力が全く見られないこと。安心・安全に開催できるということへ、最も肝心な根拠の説明もない。国民の最優先はコロナであり、「淡々と準備を進める」では説得力がなく、何の熱も伝わらない。世界の人たちも行く価値がないと思うだろう。これで中止、返上となれば、日本は国際的な信用を失い「この程度か」という目で見られる。そんな情けない国ではないはずだ。
8年前の2013年。東京都は招致活動に成功し、1964年大会以来となる夏季五輪を日本に持ってきた。国民の負担軽減に、既存の施設も活用した「世界一コンパクトな五輪」「世界一カネのかからない五輪」とうたったが、今や乖離(かいり)した形になったのは周知の事実。追加費用もかさみ、開催費総額も3兆円を超えるともいわれている。
皮肉にも余計な“ラッピング”が取れたことで五輪の「真の核」が見えてきた。トップアスリートによる真剣勝負。一瞬にして永遠のきらめき、これこそが真の五輪の姿だ。目先の金銭的な恩恵や損得に目がくらみ、本来の主役は選手であり、未来の若者のための五輪を忘れていたのではないだろうか。
実況中継のアナウンサーを目指したきっかけは、小学生の時にテレビで見た、68年メキシコ市五輪陸上男子200メートル表彰式の衝撃的な光景だった。金メダルと銅メダルの黒人選手が黒い手袋を突き上げ、人種差別へ無言の抗議を世界に訴えた。真剣勝負の美しさはもちろん、勝負を超えたものも五輪にはあると感じた。04年アテネ五輪の体操男子団体金メダルの中継では、私が発した「栄光への架け橋」に感動し、スポーツアナウンスを目指した人がたくさんいる。また、体操を始めた人も多い。
18年平昌五輪スピードスケート女子500メートルで金メダルを争って敗れた地元の李相花を、小平奈緒が肩を抱いたシーンに世界中の人々が感動し、スポーツの持つ力を感じた。何よりも韓国の若者たちが、李相花は金を取れなかった選手でなく、素晴らしいレースをした選手だと語っている。
私たちの64年東京五輪も多くの若者に影響を与えた。青々とした芝生のピッチで、満員の中でサッカーのリーグをしようと夢見た若者らが大人になり、約30年後にJリーグが誕生した。五輪の特別な舞台でしか見られない選手たちのきらめきが、その国の未来を変えていく。まさに心と魂で受け継ぐ“無形のレガシー”となる。
今の日本がすべきことは総力を挙げて約200の国・地域、約1万人の選手らと世界に対し、五輪はできるんだと説明すること。五輪予選をできる限界の時期が5月と逆算し、4月30日までに世界に大々的なプレゼンを行ってほしい。半分を超える国・地域が来るなら開催し、100以下の国・地域しか来ないなら、もはや返上するしかない。
もし観客数制限があるなら、観客は次の世代を担う子供や若い人たちにしてほしい。何十年も後の世界で何かしらの困難が起きた際、東京五輪を観戦した若者たちが「あの時、日本が五輪を開いたじゃないか」「あの選手の活躍を思い出そう」と振り返ってくれるはずだ。
完璧な形で行われた五輪は過去にはない。完璧でなくてもできる、完璧でなくてもその時に参加できるトップアスリートらで実現できるというメッセージを日本から発信してほしい。ここで簡単に白旗を掲げちゃいけない。それが私の「五輪開催すべし」という主張だ。(元NHKアナウンサー、解説主幹)