■ウィズ&ポストコロナの時代を、明るく生き抜く科学書
人生100年時代というが、多くの人はそこまで長生きできるかどうか自信がない。本書は老化研究の第一人者であるハーバード大学の遺伝学教授が、老化は決して避けて通れないものではないと喝破する。
「老化の情報理論」によってそのメカニズムを解明し、最先端の科学的知見から「120歳まで健康に生きられる方法」を開示する。「病のない老い、老いなき世界」はすぐそこまで来ているという現実を知り、2020年度で定年を迎える評者にも光が見えてきた。
本書は3部構成で、第1部「私たちは何を知っているのか(過去)」、第2部「私たちは何を学びつつあるのか(現在)」、第3部「私たちはどこへ行くのか(未来)」からなる。これはゴーギャンの名画タイトル(ボストン美術館所蔵)と同じ作りで、人類の過去・現在・未来にわたる身体を通じて「老いなき世界」を導いてゆく。
今や老化は治療可能な病であり、生命の「サバイバル回路」を働かせよと著者は説く。体の遺伝情報を司るDNAが損傷したときに修復する仕組みだが、老化を防ぐポイントがここにある。ちなみに、具体的な方策を解説する力量は、著者が非常に優れた医学者であることを示している。中身が本当によくわかっている専門家ほど、誰もが理解できるように説明できるからだ。
こうした意欲的な著作だが、著者が実践している健康法は極めてシンプルだ。「『食事のカロリーを減らせ』『小さいことにくよくよするな』『運動せよ』以外に、医学的なアドバイスをするつもりはない。私は研究者であって医者ではないからだ」(474ページ)と記す。
■その言説には説得力がある
逆に、事実のみに立脚する研究者だからこそ、その言説には説得力がある。「砂糖、パン、パスタの摂取量をできるだけ少なくする。(中略)1日のどれか1食を抜くか、少なくともごく少量に抑えるようにする。スケジュールが詰まっているおかげで、たいてい昼食を食べ損なっている」(475ページ)。昼食を抜く理由は評者と同じだった。
著者の思想は、現代哲学の主要テーマである身体論にも通じる斬新なものだ。地球科学を専門とする評者は、野口晴哉(はるちか)の身体論を導入して身体論的地球科学を進めているが、著者のアプローチも自然科学としての医学に身体論を埋め込んで「老いなき世界」を実現しようとする。これこそ新しい学問分野を切り拓く発想と評者は大いに期待している。
さて、本書は世界20カ国で刊行されベストセラーとなったが、もちろん人には寿命があり、誰もが120歳を実現できるわけではない。しかし、ウィズ&ポストコロナの不透明な時代を明るく生き抜く際に、打ってつけの良心的科学書であることは間違いない。ぜひ一読を薦めたい。
12/14(月) 9:16 プレジデント・オンライン
https://news.yahoo.co.jp/articles/e76c4834db2481e57abb2536c91fb92328a74856
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人生100年時代というが、多くの人はそこまで長生きできるかどうか自信がない。本書は老化研究の第一人者であるハーバード大学の遺伝学教授が、老化は決して避けて通れないものではないと喝破する。
「老化の情報理論」によってそのメカニズムを解明し、最先端の科学的知見から「120歳まで健康に生きられる方法」を開示する。「病のない老い、老いなき世界」はすぐそこまで来ているという現実を知り、2020年度で定年を迎える評者にも光が見えてきた。
本書は3部構成で、第1部「私たちは何を知っているのか(過去)」、第2部「私たちは何を学びつつあるのか(現在)」、第3部「私たちはどこへ行くのか(未来)」からなる。これはゴーギャンの名画タイトル(ボストン美術館所蔵)と同じ作りで、人類の過去・現在・未来にわたる身体を通じて「老いなき世界」を導いてゆく。
今や老化は治療可能な病であり、生命の「サバイバル回路」を働かせよと著者は説く。体の遺伝情報を司るDNAが損傷したときに修復する仕組みだが、老化を防ぐポイントがここにある。ちなみに、具体的な方策を解説する力量は、著者が非常に優れた医学者であることを示している。中身が本当によくわかっている専門家ほど、誰もが理解できるように説明できるからだ。
こうした意欲的な著作だが、著者が実践している健康法は極めてシンプルだ。「『食事のカロリーを減らせ』『小さいことにくよくよするな』『運動せよ』以外に、医学的なアドバイスをするつもりはない。私は研究者であって医者ではないからだ」(474ページ)と記す。
■その言説には説得力がある
逆に、事実のみに立脚する研究者だからこそ、その言説には説得力がある。「砂糖、パン、パスタの摂取量をできるだけ少なくする。(中略)1日のどれか1食を抜くか、少なくともごく少量に抑えるようにする。スケジュールが詰まっているおかげで、たいてい昼食を食べ損なっている」(475ページ)。昼食を抜く理由は評者と同じだった。
著者の思想は、現代哲学の主要テーマである身体論にも通じる斬新なものだ。地球科学を専門とする評者は、野口晴哉(はるちか)の身体論を導入して身体論的地球科学を進めているが、著者のアプローチも自然科学としての医学に身体論を埋め込んで「老いなき世界」を実現しようとする。これこそ新しい学問分野を切り拓く発想と評者は大いに期待している。
さて、本書は世界20カ国で刊行されベストセラーとなったが、もちろん人には寿命があり、誰もが120歳を実現できるわけではない。しかし、ウィズ&ポストコロナの不透明な時代を明るく生き抜く際に、打ってつけの良心的科学書であることは間違いない。ぜひ一読を薦めたい。
12/14(月) 9:16 プレジデント・オンライン
https://news.yahoo.co.jp/articles/e76c4834db2481e57abb2536c91fb92328a74856
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