成功体験とこだわりが、通算1096勝の原辰徳監督の勘を狂わせたのかもしれない──。2020年の日本シリーズは、ソフトバンクが巨人を4連勝で倒し、4年連続日本一を達成した。4試合を通じて、巨人がリードしたのは第4戦の1回表に1点を先制した時のみ。しかも、その裏にすぐ逆転され、2回にも追加点を許したため、ファンは勝利の希望さえ見えなかったのではないか。
過去10年でセ・リーグは1回しか日本一になっておらず、この4年はソフトバンクの圧倒的な強さばかりが目立っている。野球担当記者が話す。
「1軍投手のほとんどが150キロを超えるソフトバンクの投手陣に巨人打線は全く歯が立たなかった。力の差は明らかでした。ただ、選手の力だけでなく、原監督の選手起用にも疑問があったのではないか。中でも、“秘蔵っ子”の亀井善行に拘泥した感は否めません」(以下同)
原監督は2006年に第2次政権が始まった時から亀井に期待を掛け、何度もチャンスを与えていた。2009年には自身が監督を務めるワールドベースボールクラシックの代表選手にも選出している。その影響もあってか、同年に亀井は初めて規定打席に到達し、打率2割9分、25本塁打、71打点とブレイクした。だが、以降はレギュラーの座を死守できず、36歳の一昨年、ようやく2度目の規定打席超えを果たした。
「昨年、原監督が復帰し、亀井は1番や5番を任され、陰のMVPとも言われる活躍を見せました。今年の序盤も、どの打順もこなし、代打で勝負強い打撃を見せる亀井の存在が大きく、数字以上に優勝への貢献度は高かった」
亀井は9月下旬に左足内転筋を痛めて戦列を離れ、残りのシーズンを棒に振った。亀井に加え、セットアッパーの中川皓太や大竹寛が離脱した影響もあり、巨人は終盤に失速、10月、11月を負け越した。他の5球団の追い上げがなかったため、セ・リーグ連覇を果たしたが、チームは失速したまま、日本シリーズを迎えていた。
「原監督は2次政権の頃から亀井の能力を高く買っていたし、昨年や今年の活躍を見て、日本シリーズにも欠かせない選手だと考えたのでしょう。しかし、20代の脂の乗ったレギュラー選手なら復帰即スタメンは納得できるが、38歳のベテランになって2か月近く実戦を離れると、試合勘を取り戻すのに時間が掛かるもの。
実際、亀井は日本シリーズ前、若手主体のフェニックスリーグに出場したものの、7試合で21打数3安打、打率1割4分3厘の成績しか残せていなかった。いくらシーズン序盤の貢献度が高くても、試合で結果を残せない選手を日本シリーズで6番・指名打者(DH)で先発出場させるには無理があったのではないか。ソフトバンク投手陣の速球に、復帰明けのベテランがどこまで付いていけるか未知数だった」
亀井は1〜3戦でスタメン、4戦は9回に代打で出場するも、最後の打者となってしまった。4試合で9打数ノーヒット。そのうち5度は走者を置いた場面での打席だった。
「今シリーズの象徴的な場面として、第1戦、巨人が2点リードされた4回裏無死一、二塁から丸佳浩が併殺打を打ったシーンがクローズアップされます。ただ、2死三塁から亀井が打っていれば、不調の中軸を助けられた。実際、近年の亀井はそのような役割を見事に果たしていて、首脳陣の信頼を勝ち取っていた。いわば、原監督は亀井起用の成功体験の味を覚えていたのでしょう。しかし、今シリーズでは結果が出なかった。亀井本人の問題というより、ケガ明けでフェニックスリーグでも結果を残せていないのに、起用した監督の責任です」
ソフトバンクが左腕のムーアを先発させる第3戦も、原監督は亀井を7番・レフトで先発させた。しかし、セカンドゴロ併殺打とファーストゴロに終わり、3打席目に向かう前に代打・若林晃弘が送られた。亀井と同じ外野手で、日本ハムから移籍してきた右打者の陽岱鋼や石川慎吾はベンチ入りすらしていなかった。
「何らかの事情があるのでしょうけど、もう少しパ・リーグ出身選手を使っても良かったのでは。打撃のいい捕手の大城卓三をDHに回して、一昨年まで西武に在籍していたベテランの炭谷銀仁朗をスタメンで起用すれば、もう少し違った展開になったかもしれない。
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