5/3(日) 6:00配信 文春オンライン
https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20200503-00037499-bunshun-spo
新型コロナウイルスの感染拡大を受け、東京五輪の開催が来年7月に延期されることになった。国際オリンピック委員会(IOC)は延期の決定に至るまで、4年に1度の「平和の祭典」が選手や観客の生命や健康に勝ると言わんばかりに振る舞い、いたずらに決断を遅らせ、世界中の選手や競技団体から激しい非難を受けてきた。
4月20日に『 オリンピック・マネー 誰も知らない東京五輪の裏側 』(文春新書)を上梓したジャーナリストの後藤逸郎氏が五輪延期の決定を遅らせたIOCの「マネー・ファースト」というべき体質について綴った。
他のスポーツやイベントが早々に延期や中止を決めた中、なぜオリンピックの判断が遅れたのか。それは、IOCが世界最大級のイベントに育て上げたオリンピックが、スポーツ・ビジネスの集金システムと化し、IOC自身を縛っているからだ。IOCの行動原理は「アスリート・ファースト」ならぬ、「マネー・ファースト」にほかならない。
■IOCは「スポーツ・ビジネスの企業集団」
「平和の祭典」を掲げるIOCだが、実は国際機関でも、国連機関でもない。スイスのローザンヌ市に拠点を置く非営利組織(NPO)兼非政府組織(NGO)であり、その傘下に財団や株式会社、有限会社を多数抱えている。いわば、「スポーツ・ビジネスの企業集団」なのだ。オリンピックを創設したクーベルタン男爵が唱えた「オリンピック・ムーブメント」の展開を社是とし、その活動資金を主にテレビ局からの放映権料で賄っている。
放映権料のおかげで、IOCの財政は極めて安定している。直近(2013〜2016年)の収支報告によると4年間の収入総額は57億ドル。うち73%を放映権料、18%をTOPと呼ばれる企業スポンサー料が占めている。また、2018年末の総資産は41億ドル、流動資産は23億ドル、非流動資産は19億ドル。現金およびその他の金融資産は計37億ドル。1980年のサマランチ会長就任時に流動資産は20万ドルしかなかったと伝えられるのが信じられないほどの急伸ぶりだ。
しかし、新型コロナウイルスの世界的流行は、そんな“優良企業IOC”の欠陥をさらけ出した。収益の柱が放映権料である以上、大会中止は自らの首を絞める行為に等しい。延期しようにも、年内も1〜2年後も他のスポーツ大会とその中継が予定されている。放映権料を収益源としているのは、ほかの競技団体も同じだ。優越的な立場でテレビ局を手玉にとってきたはずのIOC、そして主力事業のオリンピックは、テレビ中継を核としたスポーツ・ビジネスの歯車のひとつに過ぎなかったことが露呈したのだ。
■アスリート・ファーストの原点に立ち返れ
新型コロナウイルスが世界で猛威を振るう以上、通常開催断念は当然の判断に思える。しかし、来夏までの延期は公衆衛生上の根拠がない。世界保健機関(WHO)はいまも終息予想を出していない。IOCのトーマス・バッハ会長も安倍晋三首相も、中止を避けるために、見切り発車をしただけにすぎない。組織委員会幹部が語る。
「1年延期といいますが、来年の今頃になっても新型コロナウイルスが収まっていなかったらどうするのか。『再延期します』なんてことになれば興ざめも甚だしい。本来は延期時期を区切らず、コロナが完全に終息した段階で開催し、アスリートにとっても観客にとっても完全に安心できる大会にすべきでした。安倍首相や森喜朗組織委会長には、バッハ会長の顔色を窺うのではなく、アスリート・ファーストの原点に立ち返って判断をしてもらいたかった」
「スポーツイベントの興行主」となったIOCに振り回されるのではなく、真のアスリート・ファーストとは何か。いまこそ肝に銘じるべきだろう。
「文藝春秋」5月号および「文藝春秋digital」に掲載した「 五輪延期費用3000億円 IOCも負担せよ 」では、延期決定を遅らせた要因の一つである米国4大スポーツと五輪との力関係や、延期によって生じる日本の追加負担についても詳述している。
https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20200503-00037499-bunshun-spo
新型コロナウイルスの感染拡大を受け、東京五輪の開催が来年7月に延期されることになった。国際オリンピック委員会(IOC)は延期の決定に至るまで、4年に1度の「平和の祭典」が選手や観客の生命や健康に勝ると言わんばかりに振る舞い、いたずらに決断を遅らせ、世界中の選手や競技団体から激しい非難を受けてきた。
4月20日に『 オリンピック・マネー 誰も知らない東京五輪の裏側 』(文春新書)を上梓したジャーナリストの後藤逸郎氏が五輪延期の決定を遅らせたIOCの「マネー・ファースト」というべき体質について綴った。
他のスポーツやイベントが早々に延期や中止を決めた中、なぜオリンピックの判断が遅れたのか。それは、IOCが世界最大級のイベントに育て上げたオリンピックが、スポーツ・ビジネスの集金システムと化し、IOC自身を縛っているからだ。IOCの行動原理は「アスリート・ファースト」ならぬ、「マネー・ファースト」にほかならない。
■IOCは「スポーツ・ビジネスの企業集団」
「平和の祭典」を掲げるIOCだが、実は国際機関でも、国連機関でもない。スイスのローザンヌ市に拠点を置く非営利組織(NPO)兼非政府組織(NGO)であり、その傘下に財団や株式会社、有限会社を多数抱えている。いわば、「スポーツ・ビジネスの企業集団」なのだ。オリンピックを創設したクーベルタン男爵が唱えた「オリンピック・ムーブメント」の展開を社是とし、その活動資金を主にテレビ局からの放映権料で賄っている。
放映権料のおかげで、IOCの財政は極めて安定している。直近(2013〜2016年)の収支報告によると4年間の収入総額は57億ドル。うち73%を放映権料、18%をTOPと呼ばれる企業スポンサー料が占めている。また、2018年末の総資産は41億ドル、流動資産は23億ドル、非流動資産は19億ドル。現金およびその他の金融資産は計37億ドル。1980年のサマランチ会長就任時に流動資産は20万ドルしかなかったと伝えられるのが信じられないほどの急伸ぶりだ。
しかし、新型コロナウイルスの世界的流行は、そんな“優良企業IOC”の欠陥をさらけ出した。収益の柱が放映権料である以上、大会中止は自らの首を絞める行為に等しい。延期しようにも、年内も1〜2年後も他のスポーツ大会とその中継が予定されている。放映権料を収益源としているのは、ほかの競技団体も同じだ。優越的な立場でテレビ局を手玉にとってきたはずのIOC、そして主力事業のオリンピックは、テレビ中継を核としたスポーツ・ビジネスの歯車のひとつに過ぎなかったことが露呈したのだ。
■アスリート・ファーストの原点に立ち返れ
新型コロナウイルスが世界で猛威を振るう以上、通常開催断念は当然の判断に思える。しかし、来夏までの延期は公衆衛生上の根拠がない。世界保健機関(WHO)はいまも終息予想を出していない。IOCのトーマス・バッハ会長も安倍晋三首相も、中止を避けるために、見切り発車をしただけにすぎない。組織委員会幹部が語る。
「1年延期といいますが、来年の今頃になっても新型コロナウイルスが収まっていなかったらどうするのか。『再延期します』なんてことになれば興ざめも甚だしい。本来は延期時期を区切らず、コロナが完全に終息した段階で開催し、アスリートにとっても観客にとっても完全に安心できる大会にすべきでした。安倍首相や森喜朗組織委会長には、バッハ会長の顔色を窺うのではなく、アスリート・ファーストの原点に立ち返って判断をしてもらいたかった」
「スポーツイベントの興行主」となったIOCに振り回されるのではなく、真のアスリート・ファーストとは何か。いまこそ肝に銘じるべきだろう。
「文藝春秋」5月号および「文藝春秋digital」に掲載した「 五輪延期費用3000億円 IOCも負担せよ 」では、延期決定を遅らせた要因の一つである米国4大スポーツと五輪との力関係や、延期によって生じる日本の追加負担についても詳述している。