今年のドラフト会議で最も注目されるであろう岩手県立大船渡高校の剛腕、佐々木朗希(ろうき)(17)は中学時代からの仲間と共に甲子園出場を夢見てきた。しかし、彼に熱視線を送る周囲の大人たちには別の思惑があるようで――。
最速163キロの剛腕を絶賛するのは、スポーツジャーナリストの染谷恵二氏だ。
「メジャーでも大活躍できる逸材です。高めのストレートで三振を取れる選手は日本のプロですらなかなかいません」
そんな怪物くんが直面していた難題は二つ。甲子園出場の夢を果たすことと、“球数制限問題”である。
彼には地元の甲子園常連校で、大谷翔平を輩出した花巻東からお呼びがかかっていた。しかし東日本大震災で父親と祖父母を失った佐々木は、気心の知れた友人たちと私立の強豪校を破って甲子園を目指すことを誓い、公立の大船渡高校に進学したのである。その彼は元来、練習の虫だったという。大船渡市立第一中学校時代の恩師、萬(よろず)英一教諭が振り返る。
「練習好きで、少し回復するとやり過ぎてしまうんです。ですから『今日は40球しか投げるな』『今週は200球にしておけ』などと釘を刺したものです。こちらが止めないと、その倍以上投げ込むタイプでした」
■絶対に潰せない逸材
大船渡で出会ったのは、米独立リーグでプレー経験のある国保陽平監督。選手の骨密度まで調べ、成長中の選手に過度なメニューを与えない方針を貫いている。
「それでも佐々木は調子がいいと、同じ球種を何度も試したくなる傾向がある。だから国保監督は『もっと投げたいと思ったところで止めろ』と指示しています。また、彼のその日の体調を考慮して練習メニューを与えていますね」(染谷氏)
そんな佐々木の状況を見るにつけ、周囲が気にかけるのが球数問題である。
「プロのスカウトたちは、彼の故障を恐れ、県予選で早目に負けることを望んでいましたね」(同)
「金のなる木」が甲子園の連戦連投で潰されてしまってはたまらないというわけだ。確かに高校時代の連投が祟り、プロ入り後に鳴かず飛ばずで終わった有名選手は少なくない。
周囲からのプレッシャーもあり、高校球界の至宝への気遣いばかりが伝えられる国保監督。5月18日の春季岩手県大会では佐々木をマウンドに上げず、2番手の投手を起用して初戦で敗退する苦杯をなめた。強豪校ではない大船渡の甲子園出場と佐々木の球数問題の両方をクリアするのはかくも難しく、綱渡りの戦術が必要になる。
「こんな逸材が壊れたら一大事だから、早く自分の手を離れてほしいと零(こぼ)すこともあるほどですよ」(スポーツ紙記者)
同じ球場に居ても、夢を追いジレンマに苦しむ佐々木や監督と、札束攻勢のスカウトたちが同床異夢だったことだけは間違いない。
「週刊新潮」2019年7月25日号 掲載
7/24(水) 5:57配信 デイリー新潮
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