もし、こんなことがあったら、どうしますか?
そう問われて、思わずうーんと唸ってしまった。
難しい質問を投げてきたのは、現職の中学軟式野球部の先生。問われたのは、その中学の卒業生で現在高校3年になる球児の「進路」について。相談を受けて困ってしまったという。
「本人には進みたい大学があって、そこで野球を続けたいという強い意志がある。しかし高校からは、お前はこの大学かこっち。どちらかを選びなさい。そういう“指導”だったそうです。本人が自分の考えを伝えて、一般入試でも希望の大学を受験したいと訴えても『お前に受かるわけないだろ! 』と一喝されて、どちらか選べ! の一辺倒だったそうで。夏の予選に集中させてやりたい時に、かわいそうで、かわいそうで……」
6月から7月の初めが、高校球児の進路が「内定」する時期だということはあまり知られていない。
もちろん、一般入試組ではなく、野球部の推薦や大学のスポーツ推薦で内定する場合の話である。
■大学を退学、入り直しという例も。
大学のほうから「この選手をぜひ!」というケースもあるし、高校のほうから練習参加をお願いして大学側のお眼鏡にかない、「では推薦で」というケースもあると聞いている。
「進路の選択って、本来、家庭で決めることじゃないんですか? 学校はあくまでも、その相談役というか、アドバイザー的な役割だと思ってたんですが……」
先生も、ほとほと困っている様子だった。
実は、よく耳にする話ではある。
高校から「ここへ!」と指示された大学に進んだものの、やはり納得いかぬ野球部生活に限界が来て退部、退学。結局、最初に希望していた大学に入り直した例も多い。
入り直すと言ったって、新たに入学金その他、親に負担がかかるわけで、誰でも彼でもそれができるわけもなく、同じような話で大学を中退して、繁華街の交差点でルール違反の客引きをしてるところを“御用”になってしまった悲しい例も知っている。
■指導者は良かれと思っている場合も多いが。
「やめます、ほんとに、すぐやめます! それも、こっちがほんとに期待して推薦で獲った子が、あっさりやめる。これ、なんですかね……僕らの頃はメンバーはやめなかった」
驚きながら、憤慨しながら、そんな現状を訴える大学の監督さんも少なくない。
なぜ、期待の星までがあっさり部を退いてしまうのか?
私には、わかる気がする。
それは、「納得」がないから。入学の仕方に、納得と「必然性」がないから。
根拠や理由もよくわからないままに、他人が決めた進路になんとなく進んでしまった結果の、気持ちわるい中途半端さと、なぜ自分がこの空間で厳しい練習に汗を流さねばならないのか……。そこに「答え」を見出だせない苛立ちとか不安定さに我慢できなくなった時、青年たちは今の環境をポーンと投げ捨てるのだ。
「自分、来たくて来たわけじゃないんで、ここ……」
薄ら笑いしながらつぶやいたそんな捨て台詞を、直接聞いたこともある。
一瞬は、人のせいにしてるんじゃないよ……と思いそうになったが、選手の立場ではどうにも抗いきれない「システム」に対する絶望感が伝わってきて、選手だけを責められない現状を嘆きたくもなったものだ。
「だって高校生たちは、大学野球のことなんて知らないでしょう。親だって同じですよ。六大学に行かせたいとか言いながら、6個大学を言えなかったり。そんな状況で、ご家庭で決めてくださいなんて言えませんよ、危なっかしくて。一般受験に失敗してから、どうしましょう? って言われても、もう間に合いませんからね」
指導者の方たちは良かれと思ってそうしていることを訴えて、確かに、それはそれで一理あるのも間違いない。
■選手が大学の環境に関心があるのだろうか。
選手たち本人が、進学、進学と上を見上げているわりに「大学野球」という現場を知らな過ぎるというのも、間違いのない事実だろう。
高校球児たちとの会話の中で、自分たちが、もう来年の今ごろはその中に身を置いているはずの世界に対して、知識も関心もあまりにも低いことに、小さな憤りすら覚えることがある。
今の高校生はそうした無知無関心を笑いのネタにしてやり過ごそうとするが、自分自身に跳ね返ってくることを、“手遅れ”になる前に気がついてほしい。
>>2以降に続きます
7/9(火) 11:01配信 Number Web
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