「ポケットモンスター」シリーズ初の実写映画「名探偵ピカチュウ」(ロブ・レターマン監督)が4週目で早くも動員163万人、興行収入23億円を突破するなど人気を博している。とかくアニメやゲームの実写映画化は厳しい目で見られるケースが多いが、本作はそうしたネガティブな声が少ないようだ。アニメコラムニストの小新井涼さんが理由を分析する。
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ハリウッド映画「名探偵ピカチュウ」が全世界で公開され、日本でも応援上映が行われるなど大きな盛り上がりを見せています。ハリウッドといえど、「アニメやゲームの実写化」は邦画での実写化と同じくなにかと批判も起こりやすいのですが、この「名探偵ピカチュウ」に関してはアニメファンの間でも好意的に受け入れられているようです。発表当初こそ「ポケモンを実写で!?」という戸惑いの声が少なくなかったにもかかわらず、いざ上映されるころにはすっかりポジティブな見方の方が多くなっていたのは一体なぜなのでしょうか。
ネガティブな意見が少ない原因として、まず考えられるのは、この作品が“逆に”実写のハリウッド映画だったからだと思います。
通常の「ポケモン」映画の客層は、メインターゲットであるキッズ・ファミリー層や「ポケモン」好きなアニメファンがほとんどですが、今作では20、30代の友人同士や英語圏の観客、カップルなど普段アニメ映画でなかなか見かけない層も多く見受けられました。どうやら本作の客層は、「ジブリ」や「コナン」といったメジャーアニメよりもさらに広く、「マーベル」や「ディズニー」の実写映画くらいにまで広がっているようなのです。
これは恐らく、ハリウッドでの実写化によってアクションやミステリー要素といった万人向けのエンタメ性が強調され、本作が「『ポケモン』ではあるものの、完全にアニメやゲームを卒業した人たちまで気兼ねなく足を運べる映画」になったからだと思います。そうして広がった客層の評判がこれまたことごとく良いことで批判の声も薄まり、実写化を否定していた人たちも「試しに見てもいいかな」と、警戒を解き始めているのではないでしょうか。
もうひとつの原因は、「ポケモン」と実写映像との思わぬ相性の良さだと思います。どんなによくできた実写映画でも、現実に存在しない生物の異質さにはどうしてもフィクションっぽさを感じてしまうものですが、「名探偵ピカチュウ」をみると、現実世界にポケモンがいることに違和感がないどころか、どこか既視感さえ覚える瞬間がありました。
その既視感の正体とは、恐らく「ポケモンGO」によるものだと思います。実写化と聞くとつい批判的になってしまう私たちアニメファンですが、実は「ポケモンGO」によって、とっくの昔からポケモンの実写化、つまり“ポケモンがいる現実世界”を見慣れていたのです。
はじめこそ実写版のリアルなポケモンたちの姿に多少戸惑ってしまったとしても、映画を見終わるころには、逆に自分の周りにポケモンがいないことに違和感を持ってしまうくらい、自然と作品の世界観に順応できていると思います。鑑賞した人の感想に好意的なものが多いのは、一番のハードルであるはずの実写映画であることを、すんなりと受け入れられるからではないでしょうか。
しかし、これらはあくまで映画公開後に評判が良い理由であって、今回「名探偵ピカチュウ」がここまで盛り上がっているのは、いつもは実写化に批判的になりやすいアニメファン層にも、公開前から作品がポジティブに受け入れられていたことが大きいと私は思っています。
その一番のポイントとなったのは、ピカチュウの「可愛い見た目に反する渋い声」や「しわしわの表情」「本編流出に見せかけた1時間以上の宣伝映像」といった、SNSでネタにしやすい情報でのプロモーションではないでしょうか。
原作であるゲーム版ではおなじみの「ピカチュウの可愛い見た目に反する渋い声」は、映画で初めてそのギャップに触れた人にはかなりの衝撃だったようで、初期のトレーラーは、発表当時SNSでも話題になりました。さらにその声をアニメファンの間でも人気の高い、“俺ちゃん”ことデッドプール役のライアン・レイノルズさんが演じたことも、ファンが作品に好印象を抱くきっかけになっていたように思います。
2019年06月02日アニメ コラム
https://mantan-web.jp/article/20190602dog00m200015000c.html
イラスト
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ハリウッド映画「名探偵ピカチュウ」が全世界で公開され、日本でも応援上映が行われるなど大きな盛り上がりを見せています。ハリウッドといえど、「アニメやゲームの実写化」は邦画での実写化と同じくなにかと批判も起こりやすいのですが、この「名探偵ピカチュウ」に関してはアニメファンの間でも好意的に受け入れられているようです。発表当初こそ「ポケモンを実写で!?」という戸惑いの声が少なくなかったにもかかわらず、いざ上映されるころにはすっかりポジティブな見方の方が多くなっていたのは一体なぜなのでしょうか。
ネガティブな意見が少ない原因として、まず考えられるのは、この作品が“逆に”実写のハリウッド映画だったからだと思います。
通常の「ポケモン」映画の客層は、メインターゲットであるキッズ・ファミリー層や「ポケモン」好きなアニメファンがほとんどですが、今作では20、30代の友人同士や英語圏の観客、カップルなど普段アニメ映画でなかなか見かけない層も多く見受けられました。どうやら本作の客層は、「ジブリ」や「コナン」といったメジャーアニメよりもさらに広く、「マーベル」や「ディズニー」の実写映画くらいにまで広がっているようなのです。
これは恐らく、ハリウッドでの実写化によってアクションやミステリー要素といった万人向けのエンタメ性が強調され、本作が「『ポケモン』ではあるものの、完全にアニメやゲームを卒業した人たちまで気兼ねなく足を運べる映画」になったからだと思います。そうして広がった客層の評判がこれまたことごとく良いことで批判の声も薄まり、実写化を否定していた人たちも「試しに見てもいいかな」と、警戒を解き始めているのではないでしょうか。
もうひとつの原因は、「ポケモン」と実写映像との思わぬ相性の良さだと思います。どんなによくできた実写映画でも、現実に存在しない生物の異質さにはどうしてもフィクションっぽさを感じてしまうものですが、「名探偵ピカチュウ」をみると、現実世界にポケモンがいることに違和感がないどころか、どこか既視感さえ覚える瞬間がありました。
その既視感の正体とは、恐らく「ポケモンGO」によるものだと思います。実写化と聞くとつい批判的になってしまう私たちアニメファンですが、実は「ポケモンGO」によって、とっくの昔からポケモンの実写化、つまり“ポケモンがいる現実世界”を見慣れていたのです。
はじめこそ実写版のリアルなポケモンたちの姿に多少戸惑ってしまったとしても、映画を見終わるころには、逆に自分の周りにポケモンがいないことに違和感を持ってしまうくらい、自然と作品の世界観に順応できていると思います。鑑賞した人の感想に好意的なものが多いのは、一番のハードルであるはずの実写映画であることを、すんなりと受け入れられるからではないでしょうか。
しかし、これらはあくまで映画公開後に評判が良い理由であって、今回「名探偵ピカチュウ」がここまで盛り上がっているのは、いつもは実写化に批判的になりやすいアニメファン層にも、公開前から作品がポジティブに受け入れられていたことが大きいと私は思っています。
その一番のポイントとなったのは、ピカチュウの「可愛い見た目に反する渋い声」や「しわしわの表情」「本編流出に見せかけた1時間以上の宣伝映像」といった、SNSでネタにしやすい情報でのプロモーションではないでしょうか。
原作であるゲーム版ではおなじみの「ピカチュウの可愛い見た目に反する渋い声」は、映画で初めてそのギャップに触れた人にはかなりの衝撃だったようで、初期のトレーラーは、発表当時SNSでも話題になりました。さらにその声をアニメファンの間でも人気の高い、“俺ちゃん”ことデッドプール役のライアン・レイノルズさんが演じたことも、ファンが作品に好印象を抱くきっかけになっていたように思います。
2019年06月02日アニメ コラム
https://mantan-web.jp/article/20190602dog00m200015000c.html
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