もうじき忘年会シーズン。夜の街で正体なくうずくまる人、仲間に引きずられる人を見かける季節だ。
そんな街の酔っ払いも、この動画の酔漢たちを見れば一気に目が覚めるのではないか。
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動画の中心に映る、へべれけの若者。掘り炬燵式のテーブルにはしゃぶしゃぶの鍋。
コンロの火はついたままだ。若者の後頭部を左隣の男が押さえつける。
女性の「きゃー!」という悲鳴が響くなか、若者の顔は煮えたぎる鍋につけられた。
苦悶に歪んだ顔の若者がのけぞると同時に、鍋はテーブルから落ち、コンロの火がパッと広がった――。
撮影日は、2015年の暮れも押し迫った12月20日。東京は渋谷駅のすぐそば、カジュアルな鍋料理店の個室で行われた忘年会の席である。
主催は渋谷区内に事務所を構える芸能プロダクション。
若年層に人気の女性タレントや、雑誌「Popteen」の元モデルなどが所属する会社だ。
総勢十数人の参加者の目の前で起きた惨劇。
“加害者”は当時25歳の芸能プロ社長で、“被害者”である当時23歳の従業員は、顔一面に火傷を負った。
「顔を突っ込まれたときは、そうせざるをえない状況に追い込まれていたんです」
と、当の従業員が重い口を開き、語りはじめる。
診断結果は、傷痕や後遺症の残る可能性があるII度の熱傷
真っ赤に爛れた顔
「席ではずっと、社長から“なんか面白いことやれよ!”と言われていました。でも僕は芸がないので、ひたすら一気飲みをさせられました。
ビールをジョッキで15杯、レモンサワーをピッチャーで2〜3杯だったと思います」
これだけでも異常だが、
「“クライアントさんもいるんだから面白いことやれ。鍋に頭、突っ込めよ”と囃されて……。顔が真っ赤に爛れてしまったので、午前4時ころに救急外来に行ってから帰りました。
記憶が曖昧だったこともあって、家族には、自分でやったと伝えていたんですけれど」
診断結果は、傷痕や後遺症の残る可能性があるII度の熱傷。
「朝方に社長が家に来て、“顔、自分から鍋に突っ込んでたけど、大丈夫?”と言ったんです。けれど、あとから現場にいた人が動画で様子を教えてくれて、社長の仕業だと分かりました。
ただ、僕は忘年会の前の年に入ったばかりだったし、自分が入れた女の子もいたから辞められなかった」
そんな彼は、忘年会の1年後、イベント運営をめぐって理不尽な借金を背負わされ、会社を去ったという。
「実は、忘年会の前から社長の日常的なパワハラに苦しんでいました。給料をもらえなかったり坊主にさせられたりして、精神的に追い詰められていたのです」
この“被害者”の思いを、社長はどう受け止めるのか。渋谷の会社を訪ねて動画を見せたところ、目を見開いて狼狽しつつ、その場での回答を避けた。送られてきた文書には、“被害者”と、
「私との悪ふざけであったということです」
そう記されている。自分の記憶が正しいかどうか、関係者から聞き取りをしたともある。日常的なパワハラについても「事実ではありません」と否定するが、
「火傷は1カ月ほどで治りました。でも、いまでも、風呂に入れば痒くなります。損害賠償を請求したいし、被害届も出したいです」
と、従業員の被害感情は揺らがない。動画が、なによりの証拠だからだ。
「週刊新潮」2018年11月29日号 掲載
https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20181127-00552318-shincho-soci
11/27(火) 6:00配信