■身体への負担は倍だから……
陰惨な事件に、世の中を舐めた酷い対応――。そんなものに囲まれたわれら日本人の心の糧だった、と言っても、あながち大袈裟ではあるまい。そんな大谷翔平クン(23)が、なんと故障者リスト(DL)に入ってしまった。われらが希望は潰えるのか……。
***
MLBに衝撃デビューし、その成績で、投球のスピードで、ホームランの豪快さで、日米にあまねく衝撃を与えてきた大谷選手だけに、日本時間の9日に伝えられた故障のニュースは、それ以上の衝撃となった。
しかも、その内容は右肘内側側副靭帯(ないそくそくふくじんたい)損傷。その翌日、ヤンキースのマー君こと田中将大投手(29)もDL入りしたが、彼の両太もも裏の軽い挫傷とは、わけが違うという。
「肘の側副靭帯の部分断裂ですから、非常にまずいケガですよね」
と、大リーグ研究家の友成那智氏は顔をしかめる。
「PRP(多血小板血漿)療法を3週間ほど続けてから、判断しようとのことですが、治ってもしばらくは本調子になりません。今シーズンは投手としては無理だと思います。田中将大も1年目の7月、同じ肘の側副靭帯の部分断裂で、PRP療法に頼りました。彼の場合、それが効きましたが、9月中旬に復帰しても球速は戻らず、別人のように打たれてしまいました」
では、どうすべきか。
「このケースでは、50%がトミー・ジョン手術を受けることになります。そうなれば復帰は早くて12カ月後。遅いと16カ月後。100%戻るのは、2年後だといわれます」
いやはや、期待が膨らんだ直後であるだけに、ショッキングである。ただ、
「いまはこの手術で、太もものような強い腱をもってこられるようになったので、一度受けると再発しづらい。むしろ、大谷のように若くして受ける場合、球速が増すケースもあります」(同)
松坂大輔や藤川球児の場合は、むしろ球が遅くなったが、ともに受けたのが30代だったのだ。
それにしても、どうして故障してしまったのか。投手出身の大リーグ解説者、高橋直樹氏が言う。
「4月は疲れがなかったからやれたのでしょう。本人も張り切って、結果もよく、絶好調だったので、身体への負担を考えなかったのかもしれません。しかしそれから2カ月、一番疲れが出るころです。そこで投げて故障したというのは、致命傷になりやすい」
■問題は下半身
ただ、手術に関しては、
「まだ受けなくていいと思います」
と高橋氏は語るが、だからといって、楽観視しているわけではないようだ。そして、だれもが想像する通り、普通の投手よりも疲れが出やすいと指摘する。
「1週間に1回登板するとして、その間に2、3回程度、代打として出るならいい。でも、初回からフル出場してバットを振り続ければ、肘にはかなりの負担がかかります。それに、投手として登板後はバッティングに専念、というのを繰り返していると、投手としての調整ができません。その結果、投げるときに下半身を使えなくなり、上半身だけで投げることになっていたのかもしれません」
やはり下半身について、
「日ハムの5年間に走り込んでいないから。ピッチャーは下半身に始まって下半身に終わるんです」
と指摘するのは、野球評論家の張本勲氏である。
「二刀流で結果を出して、“あっぱれ”をあげたけど、ケガが心配だと最初から言っていました。走り込みは一番苦しいけど、それをやらなきゃ一流になれません。王はグラウンドを12周も13周も走っていて、それを見たとき“俺は負けた”と思いましたよ。かねがね言っている通り、二刀流は難しい。アメリカはグラウンドが固いから、もっと走り込まないとダメ。でも、右肘の故障だから走ることはできる。その間に、ランニングをやってほしいね」
張本氏曰く「100年に一人の逸材」は、幸いまだ若い。もっと強くなって戻る道はあるはずである。
「週刊新潮」2018年6月21日号 掲載
6/21(木) 5:57配信 デイリー新潮
https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20180621-00544008-shincho-base