最新作「ペンタゴン・ペーパーズ」の3月30日公開を前にスピルバーグ監督が、朝日新聞などのインタビューで、「言論の自由」や「#MeToo」などを語った。
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財務省が学校法人・森友学園の国有地取引に関する決裁文書を書き換えていた。民主主義の根幹を揺るがすこの事態が明らかになったのは、朝日新聞の報道がきっかけだった。
フェイスブックやツイッターでさまざまな人が発信できるようになり、情報の流れは激変した。報道機関に向ける世間の目も大きく変わった。それでも、自らに不都合な事実を隠そうとする政府を監視し、追及することが、報道機関の重要な役割の一つであることに変わりはない。
アカデミー賞で2部門の候補となったスティーブン・スピルバーグ監督の最新作「ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書」(3月30日全国公開)は、そうした報道機関の役割を正面から取り上げている。
ベトナム戦争が泥沼化する中、米国の歴代政権は勝ち目がないと気づきつつ、「敗戦」の汚名を嫌うばかりに戦争を続けていた。その経緯を記した政府の秘密報告書「ペンタゴン・ペーパーズ」が1971年、報道機関にリークされる。安全保障上の問題を理由に記事掲載を差し止めようとする政権の圧力を受けながら掲載に踏み切る米紙ワシントン・ポストの様子を描く。
製作の背景には、トランプ大統領が主要メディアを「フェイク(虚偽)ニュース」とこき下ろす米国の現状に対するスピルバーグ氏の強い危機感があった。
「(米国では)言論の自由はいま、崖っぷちに立たされている。報道機関は真実を伝えていることを分かってもらうために苦労している。市民と報道機関の間にこれだけの煙幕が張られたことはない」。朝日新聞などのインタビューに対し、こう語った。
スピルバーグ氏は「オバマ政権下でもブッシュ政権下でも通用する映画」としつつ、「政権が第4の権力(政権を監視する報道機関を指す)を切り崩そうとした。現在と似通った面が実にたくさんある」とも話す。
映画ではポスト社のキャサリン・グラハム社主をメリル・ストリープ、ベン・ブラッドリー編集主幹をトム・ハンクスが演じた。「この役を演じるのに2人以上にふさわしい俳優はいなかった」(スピルバーグ氏)というが、2人の共演は意外にも初めてだ。ストリープは受賞は逃したが、アカデミー主演女優賞の候補になった。
映画は、グラハムの成長が物語の一つの核になっている。当時は米国でも男女の格差が大きかった時代。グラハムは夫の死後社主になったが、実権は男性役員が握っていた。ペンタゴン・ペーパーズをめぐる決断で真のリーダーに成長を遂げ、米国の女性リーダーの先駆者的存在になっていく。
スピルバーグ氏は「これは偉大な女性に関する偉大な物語。今や多くの企業で女性経営者が出ているが、その扉を開いたのは彼女だった」とする。
米国では昨年、ハリウッドの有名プロデューサーの性暴力やセクハラを女優らが告発したことを機に、同様の被害にあった女性が声を上げる「#MeToo(ミートゥー)」運動が社会全体に広がった。製作開始時に意図したわけではなかったが、女性の権利をめぐる大きな一歩を取り上げたこの映画の公開はタイムリーなものにもなった。
インタビューでは、#MeToo運動にも話が及んだ。ハリウッドで長く活躍するスピルバーグ氏は「事件に驚くべきだったのだろうが、そうではなかった。長い間、みんなの周辺視野に入っていたんだ。今回の件でみんな、礼儀や振る舞いについて考え直させられている。倫理的な行動規範が必要だ」と話す。
さらにこう語った。「今起きているようなことはかつて見たことがない。子どもたちは将来、沈黙が破られてたくさんの声が上げられた年として2017年を振り返ることになるだろう。とても大事なことだと思う」
(朝日新聞ニューヨーク支局長・鵜飼啓)
2018.3.26 16:00 AERA
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