宇倍神社の御幸祭で、大みこしを担いで石段を下りる担ぎ手ら。地域外から集まっている=鳥取市国府町宮下で2018年4月15日、小野まなみ撮影
地域の祭りの担い手不足が深刻だ。伝統の継承と、地域のにぎわいの中心としての役割が期待される行事。規模を縮小したり、地域外から人を集めたり、各地で工夫しながら存続に取り組んでいる。【小野まなみ】
■獅子舞だけでも
「祭りらしい行事として、せめて獅子舞だけは残そうという気持ち」。鳥取市の大和佐美命(おおわさみのみこと)神社の麒麟(きりん)獅子舞保存を担う宮橋吉美さん(69)はそう話す。秋祭りでは5年に1度行列を出していたが、約20年前から中止に。麒麟獅子の奉納だけを残すことになった。「行列の復活は現実にはできないだろう。獅子舞だけでもやって、祭りらしい雰囲気を残すことができれば」とこぼす。
県教委文化財課によると、地域の祭りは戦争で中断した上、高度経済成長による人材流出で姿を消しつつあり、ここ10年で拍車がかかっている。同課は「祭りをきっかけにした人と人とのつながりは、災害などでもセーフティーネットになり得る」と危機感を募らせる。
■外部から助っ人
やむなく地域外の力を借り存続を目指す祭りもある。開山1300年で盛り上がる大山寺(大山町)では、戦争で途絶えていた春の大祭の行列「御幸(みゆき)」を、1987年に復活。しかし、みこしの担ぎ手が集まらず、2011年からは3年に1度に。さらに現在は参加者の大半を地域外からかき集めている。御幸保存会の足立敏雄会長(68)は「大山寺のシンボリックな行事。信仰心に基づいて続く歴史や文化の一つとして残していきたい」と、縮小しつつも維持する意義を話す。
宇倍神社(鳥取市)の春の御幸祭は約130段の石段を2トン以上ある大みこしを担いで下りるのが目玉だが、人手不足のため昭和40年代にはみこしをトラックに乗せて運ぶ措置をとった。氏子総代だけが参加し、観客もほとんどいない状況に陥った。07年、京都からの応援を得てみこし担ぎを再開。氏子総代の上山忠久会長(73)らは、祭りが担う地域活性化の役割を強調する。「一つの目標に向かって皆が協力し、それを見ようと人も集まる」と話す。
一方、祭りの参加者を氏子だけで賄い続けている賀露神社(鳥取市)では、小学生を全員参加させるなど住民一人一人の意識を高めているという。岡村吉明宮司(81)は「祭りを中心に、人の交流や町づくりができている。そういう気持ちを持ってもらえるように、今きちんとやることで将来につながっていく」と語る。
■県教委、保存団体を支援
こうした事態を行政も黙って見ているだけではない。県教委は2009年からほぼ毎年「民俗芸能フォーラム」を開催。地域の祭りや踊りなどの伝統芸能の保存団体が課題や解決策を考える場を提供する。
ただ、フォーラムの参加者は毎年20人程度。「『何とかしよう』という思いが強ければ参加するが、参加しない団体にどう連絡をとるかが課題」と、県教委文化財課の原島知子・文化財主事は話す。
そこで数年前から市町村に協力を呼びかけ各保存団体との連絡体制をつくり始めた。保存団体の代表者や活動形態など情報を把握することで、補助金利用などの支援にも結びつけやすいと話す。
来年4月には文化財保護法が改正され、未指定を含めた文化財の継承が推進される。原島主事は「この流れをうまく生かしたい」と意気込む。
毎日新聞 2018年9月18日
https://mainichi.jp/articles/20180918/ddl/k31/040/282000c
地域の祭りの担い手不足が深刻だ。伝統の継承と、地域のにぎわいの中心としての役割が期待される行事。規模を縮小したり、地域外から人を集めたり、各地で工夫しながら存続に取り組んでいる。【小野まなみ】
■獅子舞だけでも
「祭りらしい行事として、せめて獅子舞だけは残そうという気持ち」。鳥取市の大和佐美命(おおわさみのみこと)神社の麒麟(きりん)獅子舞保存を担う宮橋吉美さん(69)はそう話す。秋祭りでは5年に1度行列を出していたが、約20年前から中止に。麒麟獅子の奉納だけを残すことになった。「行列の復活は現実にはできないだろう。獅子舞だけでもやって、祭りらしい雰囲気を残すことができれば」とこぼす。
県教委文化財課によると、地域の祭りは戦争で中断した上、高度経済成長による人材流出で姿を消しつつあり、ここ10年で拍車がかかっている。同課は「祭りをきっかけにした人と人とのつながりは、災害などでもセーフティーネットになり得る」と危機感を募らせる。
■外部から助っ人
やむなく地域外の力を借り存続を目指す祭りもある。開山1300年で盛り上がる大山寺(大山町)では、戦争で途絶えていた春の大祭の行列「御幸(みゆき)」を、1987年に復活。しかし、みこしの担ぎ手が集まらず、2011年からは3年に1度に。さらに現在は参加者の大半を地域外からかき集めている。御幸保存会の足立敏雄会長(68)は「大山寺のシンボリックな行事。信仰心に基づいて続く歴史や文化の一つとして残していきたい」と、縮小しつつも維持する意義を話す。
宇倍神社(鳥取市)の春の御幸祭は約130段の石段を2トン以上ある大みこしを担いで下りるのが目玉だが、人手不足のため昭和40年代にはみこしをトラックに乗せて運ぶ措置をとった。氏子総代だけが参加し、観客もほとんどいない状況に陥った。07年、京都からの応援を得てみこし担ぎを再開。氏子総代の上山忠久会長(73)らは、祭りが担う地域活性化の役割を強調する。「一つの目標に向かって皆が協力し、それを見ようと人も集まる」と話す。
一方、祭りの参加者を氏子だけで賄い続けている賀露神社(鳥取市)では、小学生を全員参加させるなど住民一人一人の意識を高めているという。岡村吉明宮司(81)は「祭りを中心に、人の交流や町づくりができている。そういう気持ちを持ってもらえるように、今きちんとやることで将来につながっていく」と語る。
■県教委、保存団体を支援
こうした事態を行政も黙って見ているだけではない。県教委は2009年からほぼ毎年「民俗芸能フォーラム」を開催。地域の祭りや踊りなどの伝統芸能の保存団体が課題や解決策を考える場を提供する。
ただ、フォーラムの参加者は毎年20人程度。「『何とかしよう』という思いが強ければ参加するが、参加しない団体にどう連絡をとるかが課題」と、県教委文化財課の原島知子・文化財主事は話す。
そこで数年前から市町村に協力を呼びかけ各保存団体との連絡体制をつくり始めた。保存団体の代表者や活動形態など情報を把握することで、補助金利用などの支援にも結びつけやすいと話す。
来年4月には文化財保護法が改正され、未指定を含めた文化財の継承が推進される。原島主事は「この流れをうまく生かしたい」と意気込む。
毎日新聞 2018年9月18日
https://mainichi.jp/articles/20180918/ddl/k31/040/282000c