https://www.kobe-np.co.jp/news/shakai/201705/0010231612.shtml
葬送儀礼の節目といえば、納骨のタイミングでもある忌明けの「四十九日」を挙げる人が多いだろう。だが、兵庫県の淡路島では「三十五日」も大切な区切りだ。親族がそろって山に登り、おにぎりを投げる風習が残っている。
通称「だんご転がし」。その昔、米が貴重だった時代にだんごを投げていたのが由来とされる。儀礼といっても、人里離れた山中の寺院で斜面に向かっておにぎりを放る。それだけだ。
おにぎりの形は三角ではなく丸、ノリを巻いたり具を入れたりしない、斜面に背を向けて投げる−。緩やかな決まりはあるが、仏事につきものの堅苦しさはなく、和やかな雰囲気が漂う。
起源は定かでない。一説には、死者の霊の行く手を邪魔する悪霊の気を引くため、山で食べ物を投げる民間信仰が発展。仏教で閻魔(えんま)大王の審判を受けるとされる三十五日目の法要に取り込まれ、餓鬼への施しで功徳を積む行為になった、という。
都市部に比べて地域の結び付きが強い淡路島でも、少子高齢化や生活環境の変化で、さまざまな伝承や言い伝えが廃れつつある。それでも、島内の各地で取材するたびに、「だんご転がしだけは」という声が返ってきた。
山に入らず、近所の寺院で済ませる家族もいるが、代表的なスポットの先山・千光寺(洲本市)には、今も多い日で10組近くがおにぎりを放りに訪れる。儀礼を終えた人に、話を聞いてみた。
「何の効果があるんか、よう分からんけど、昔からのことやから」「やらんかったらやらんかったで、義理を欠く気がするしな」
子孫に伝えよう、引き継ごうと意識しているわけではない。どんな意味が込められているのかも分からない。それでも、肉親が亡くなると、当たり前のように山に登り、おにぎりを投げて下りてくる。
「根付く」という表現は、このような風習にこそふさわしい。