■海氷から数多く検出されるマイクロプラスチック、空からも降ってくる
ここは北極圏のグリーンランド海。ノルウェー極地研究所の研究者であるインゲボルグ・ハランガー氏は、氷の上でプラスチックを採取している。
私たちはグリーンランド北東の浅い海岸に固着した「定着氷」の上に立っている。見渡すかぎり続く白く平らな氷の上には、氷が解けてできた青い水たまりとクモの巣のようなひび割れがあちこちに見える。
ハランガー氏は、厚さ1メートルほどの氷にあけた穴をのぞき込み、氷の下の海水へホースを下ろす。調査チームのほかのメンバーはライフルを持って周辺をパトロールしている。ホッキョクグマが現れたら、近くの船に退避するためだ。ハランガー氏はポンプのスイッチを入れ、海水をろ過しはじめた。
大都市から何百キロも離れたこの場所が、地球上で最悪レベルのプラスチック汚染地になっている。研究によると、この地域の海洋マイクロプラスチックの濃度は、有名な5カ所の海洋ごみベルトの濃度より高い。最近では、空気中のマイクロプラスチックが雪と混ざって極北に降り積もっているとする報告もあった。
生態毒性学者であるハランガー氏は、合成物質が、氷のそばに暮らす生物たちに及ぼす影響を解明しようとしている。
「氷にそれほど多くのプラスチックが含まれているというのが本当なら、氷の中や下にすむ生物は、海の中で最も汚染された場所にすんでいることになります」と彼女は言う。
■プラスチックは北へ
ハランガー氏が研究を行っているグリーンランド東部と、ノルウェーのスバールバル諸島に挟まれたフラム海峡には、複数の海流が集まっている。最近の研究によると、この海峡で、海氷1リットルあたり1万2000個以上のマイクロプラスチック粒子が見つかっている。汚染された都市の沖に浮かぶマイクロプラスチック粒子に匹敵する密度だ。さらに、フラム海峡の海氷に積もった雪からは、1リットルあたり1万4000個ものマイクロプラスチック粒子が検出されている。
フラム海峡だけではない。科学者たちは、カナダの北からシベリア沖まで、北極圏の広い範囲でマイクロプラスチックを確認し、その理由を明らかにしはじめている。北極海の海底のいくつかの場所で測定されたプラスチック粒子の数は世界最多レベルだったし、北極の動物の体からもプラスチックは見つかっている。なかでも多いのが鳥だ。フルマカモメはプラスチックを集める磁石のようになっている。
「私たちが過去30年間に北極地方全域で調べてきたフルマカモメのすべての群れが、体内にプラスチックを含んでいました」と、カナダ野生生物局のジェン・プロベンシェル氏は言う。
科学者の見積もりによると最大で毎年1270万トンものプラスチックごみが海に捨てられていて、海洋プラスチックごみは今や世界的な問題になっている。けれども北極の海では、マイクロプラスチックが多く集まっていることに加えて、過酷な環境や限られた食物網、近年の気候変動のため、動物たちが特に影響を受けやすい。
「私たち人類は、この環境に生きる動物たちに、ますます多くのストレスをかけています」とハランガー氏は言う。彼女は北極地方の鳥やキツネがマイクロプラスチックにさらされる量や経路、影響を調べている。「これがとどめの一撃になる可能性もあります」
ノルウェー極地研究所の研究砕氷船クロンプリンス・ハーコン号に戻ったハランガー氏と私は、簡単な実験をすることにした。まだ誰も歩いたことのない氷の上から解けた水を採取して、フィルターに引っかかったものを顕微鏡で観察するのだ。
フィルターのあちこちに、マイクロプラスチックの定義に合う大きさの、赤や青や黒の物質が引っかかっていた。そのほとんどが化学繊維で、プラスチックの破片も少し混じっていた。
北極のこうしたプラスチックは、どこから来て、どのようにして入り込んだのだろうか?
続きはソースで
ナショナルジオグラフィック日本版サイト
https://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/19/110300639/
ここは北極圏のグリーンランド海。ノルウェー極地研究所の研究者であるインゲボルグ・ハランガー氏は、氷の上でプラスチックを採取している。
私たちはグリーンランド北東の浅い海岸に固着した「定着氷」の上に立っている。見渡すかぎり続く白く平らな氷の上には、氷が解けてできた青い水たまりとクモの巣のようなひび割れがあちこちに見える。
ハランガー氏は、厚さ1メートルほどの氷にあけた穴をのぞき込み、氷の下の海水へホースを下ろす。調査チームのほかのメンバーはライフルを持って周辺をパトロールしている。ホッキョクグマが現れたら、近くの船に退避するためだ。ハランガー氏はポンプのスイッチを入れ、海水をろ過しはじめた。
大都市から何百キロも離れたこの場所が、地球上で最悪レベルのプラスチック汚染地になっている。研究によると、この地域の海洋マイクロプラスチックの濃度は、有名な5カ所の海洋ごみベルトの濃度より高い。最近では、空気中のマイクロプラスチックが雪と混ざって極北に降り積もっているとする報告もあった。
生態毒性学者であるハランガー氏は、合成物質が、氷のそばに暮らす生物たちに及ぼす影響を解明しようとしている。
「氷にそれほど多くのプラスチックが含まれているというのが本当なら、氷の中や下にすむ生物は、海の中で最も汚染された場所にすんでいることになります」と彼女は言う。
■プラスチックは北へ
ハランガー氏が研究を行っているグリーンランド東部と、ノルウェーのスバールバル諸島に挟まれたフラム海峡には、複数の海流が集まっている。最近の研究によると、この海峡で、海氷1リットルあたり1万2000個以上のマイクロプラスチック粒子が見つかっている。汚染された都市の沖に浮かぶマイクロプラスチック粒子に匹敵する密度だ。さらに、フラム海峡の海氷に積もった雪からは、1リットルあたり1万4000個ものマイクロプラスチック粒子が検出されている。
フラム海峡だけではない。科学者たちは、カナダの北からシベリア沖まで、北極圏の広い範囲でマイクロプラスチックを確認し、その理由を明らかにしはじめている。北極海の海底のいくつかの場所で測定されたプラスチック粒子の数は世界最多レベルだったし、北極の動物の体からもプラスチックは見つかっている。なかでも多いのが鳥だ。フルマカモメはプラスチックを集める磁石のようになっている。
「私たちが過去30年間に北極地方全域で調べてきたフルマカモメのすべての群れが、体内にプラスチックを含んでいました」と、カナダ野生生物局のジェン・プロベンシェル氏は言う。
科学者の見積もりによると最大で毎年1270万トンものプラスチックごみが海に捨てられていて、海洋プラスチックごみは今や世界的な問題になっている。けれども北極の海では、マイクロプラスチックが多く集まっていることに加えて、過酷な環境や限られた食物網、近年の気候変動のため、動物たちが特に影響を受けやすい。
「私たち人類は、この環境に生きる動物たちに、ますます多くのストレスをかけています」とハランガー氏は言う。彼女は北極地方の鳥やキツネがマイクロプラスチックにさらされる量や経路、影響を調べている。「これがとどめの一撃になる可能性もあります」
ノルウェー極地研究所の研究砕氷船クロンプリンス・ハーコン号に戻ったハランガー氏と私は、簡単な実験をすることにした。まだ誰も歩いたことのない氷の上から解けた水を採取して、フィルターに引っかかったものを顕微鏡で観察するのだ。
フィルターのあちこちに、マイクロプラスチックの定義に合う大きさの、赤や青や黒の物質が引っかかっていた。そのほとんどが化学繊維で、プラスチックの破片も少し混じっていた。
北極のこうしたプラスチックは、どこから来て、どのようにして入り込んだのだろうか?
続きはソースで
ナショナルジオグラフィック日本版サイト
https://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/19/110300639/