「ミスが少ない」「急所を一瞬で見分ける」−。
デビューから連勝街道を邁進(まいしん)する藤井聡太四段(14)。
これまでの対局で敗れた棋士たちは、中学3年の「天才棋士」の強さをこう語る。
悪手を指しても冷静に判断して最善手を選ぶ中学生離れした老獪(ろうかい)さに、歴戦のつわものたちも感服した。
「序盤からミスがなく、隙もない。完成度の高い将棋だった」
21日、藤井四段が歴代1位タイの公式戦28連勝を達成した王将戦予選で対戦した澤田真吾六段(25)は、その指し手に脱帽した。
2日の棋王戦予選決勝に続く2度目の対戦。
前回は藤井四段を追い詰めたが、再び相まみえたときは中盤でミスを犯し、反撃のチャンスもなく完敗した。
相手のささいなミスを逃さない粘り強さをうかがわせるケースは他にもある。
「序盤にこちらがやや不利になった状況を最後まで保たれてしまった」。
藤井四段が7、10の2日間で計5局をこなしたうち、2局で対戦した都成(となり)竜馬四段(27)が振り返る。
最初は「強さを引き出す間もなく敗れてしまった」ため、2度目は入念に作戦を立てて臨んだものの、序盤に「軽めのジャブ」のつもりで仕掛けた手が裏目に出た。
「良い手ではなかったが、取り返しがつかないほどの悪手ではなかったはず。いかに間違えてくれないかを痛感した」
3月10、23日に戦った大橋貴洸(たかひろ)四段(24)は藤井四段と同じ昨年10月にプロ入りした同期。
「崩れない強さがあり、こちらが優勢でも『ちょっとでも間違えたら逆転するぞ』という意思を感じた」と気迫を目の当たりにしたという。
「急所を突く力が優れており、一瞬で見分けられるのだろう。同期として刺激になる」と話した。
7日に対局した阪口悟五段(38)は「落ち着いた指し手で、少しでもポイントを稼ぐのがうまい。
中盤、終盤でほとんどミスがなく、徐々にこちらが悪くなっていく。若いのに老獪だ」と感心する。
強さ、巧みさを称える声が続く一方、生来の負けず嫌いゆえか、悪手を指してしまったときに感情をあらわにする一面を指摘する棋士も少なくない。
「そこだけは中学生らしい」と語るのは、15日の順位戦で深夜までもつれ込む接戦を演じた瀬川晶司五段(47)。
自身は不利な形勢や悪手を指したことを相手に悟らせないように「ポーカーフェースに努めている」が、藤井四段は「失敗した」とつぶやいたり、膝をたたいたりして焦る様子を見せた。
「『しめしめ』と思った。ただ、踏みとどまられて、私が先に失敗してしまった…」
藤井四段が敗戦を覚悟した対局の一つに挙げた阪口五段戦でも、膝をたたいて悔しがる場面があった。
その姿に阪口五段は「これはいけるのではと思った」と振り返る。
大橋四段が「自分にムチを入れるような厳しさを感じた」と話すように、感情をむき出しにすることで相手が気おされることもあるが、マイナスに働くこともあるのが勝負の世界。
そうした面が今後どう変わっていくのかも注目だ。
写真:将棋の竜王戦決勝トーナメントで増田康宏四段を相手に、公式戦29連勝に挑む藤井聡太四段=26日午前、東京都渋谷区の将棋会館
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