エンターテインメント業界で働く「フリーター」の支援を表明した菅義偉首相の発言が波紋を広げている。フリーターは短期雇用契約のアルバイトで生計を立てる人を指すことが多いが、発言から1週間近くたっても、政府が首相発言に沿った施策を検討している気配はない。このため、首相が雇用契約を結ばない個人事業主を指す「フリーランス」と取り違えたという見方が広がっている。
発言は、4日に放送されたラジオ「FM NACK5」の番組であった。森田健作・前千葉県知事との対談で、菅首相は、緊急事態宣言などの影響を受けて減収などに苦しむエンタメ業界の働き手について「協力金や雇用調整助成金、資金繰り支援をしているが非常に少ない」「大変なご迷惑をおかけしてる」と述べた。
その上で「フリーターの方が関与していることが多い」と言及。その処遇を改善するため、「国として、社会保障制度とか、そういうのをもう一度見直したい」と表明した。
首相の発言を受け、首相がフリーター支援の検討を表明したという一部メディアの報道もあった。ただ、SNS上では「フリーランスの間違いでは」といった指摘も相次いだ。
エンタメ業界では、興行主と雇用契約ではなく、イベントごとに業務委託契約などを結ぶフリーランスの働き手が多い。雇用契約を結ぶ労働者なら対象になる失業給付や休業手当といった制度の枠外になるため、コロナ禍で契約を切られて苦労する人が後を絶たない。
一方、フリーターは短期雇用契約のアルバイトなどで生計を立てる非正規労働者を指すことが一般的だ。
だが9日時点で、首相官邸から雇用支援策を所管する厚生労働省に対して指示はなく、新たな支援策の検討もされていないという。厚労省幹部は「エンタメ業界の課題といえばフリーランス。フリーターは言い間違いだろう」と話す。
フリーランスの支援については、これまでも政府が政策課題としてきた経緯がある。6月に閣議決定された骨太の方針でも、非正規雇用やフリーランスは経済・雇用情勢の影響を特に受けやすいとしたうえで、セーフティーネットを強化することを明記している。(山本恭介)
朝日新聞 2021年7月10日 15時30分
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