あと一歩に迫った世界選手権
悲願なるか。パリオリンピックに臨む卓球女子にかかるのは、長年、目標として追い求めてきた「打倒中国」の期待だ。
卓球と言えば中国。
それくらい中国は男女ともに世界王者であり続けている。
女子をみてみると、卓球がオリンピックの種目に採用された1988年ソウル大会以降、シングルスではすべて金メダルを獲得し2008年ソウルからは銀メダルも占めてきた。つまり2008年以降の決勝は中国の選手同士で行われてきた。
また2008年から採用された団体戦も、中国がすべての大会で金メダルを獲得している。
対する日本は、シングルスでは2012年ロンドンで石川佳純、2016年リオデジャネイロでは福原愛がベスト4に進出、両者ともに中国の選手に敗れ最終的に4位で終えた。女子初のメダルを獲得したのは東京大会での伊藤美誠。準決勝で中国の選手に敗れたものの3位決定戦に勝ち銅メダルを獲得している。
団体戦では2008年北京大会は3位決定戦で韓国に敗れ4位。ロンドン大会では決勝で中国に敗れたものの銀メダル、リオデジャネイロでは銅メダル。東京では決勝で中国に敗れ銀メダルとなった。
日本も着実に地力をつけてきたことが分かる。同時に、最後に中国に跳ね返されてきた歴史がそこにある。
世界選手権でもそうだ。世界選手権団体戦では、日本と中国は2014年から今年2月まで、5大会連続で決勝に勝ち上がり対戦している。2018年大会で伊藤美誠が1勝をあげて1−3だったのを除けば、2022年までの大会は0−3で敗北。圧倒的な差をみせつけられていた。
ところが今年2月の世界選手権団体戦決勝は、今までになく中国との距離が縮まったことを示した。日本は中国に敗れ準優勝だったものの、2−3と、あと一歩に迫ったからだ。
しかも2勝のうち1つは、早田ひなが今まで勝ったことのない東京オリンピック金メダルの陳夢を破ったもの。もう1つは平野美宇が世界ランキング2位(当時)の王芸迪を破ったものだ。
決勝を終えたあと、涙を流す中国の選手たちの姿があった。日本からのプレッシャーの大きさを物語っていたし、その光景は日本の善戦をも伝えていた。
「こんなに悔しいのは初めて」
中国に近づいていることを示しているのは、この団体戦ばかりではない。
昨年の世界選手権シングルスでは準々決勝で早田が王芸迪を破り、最終的に銅メダルを獲得した。中国の選手から勝利をあげて表彰台に上がるのは実に58年ぶりのことであった。
選手たちも中国勢との戦いに手ごたえを感じている。世界選手権団体戦後、平野はこう語っている。
「今までは負けてもどこかで『しょうがない』という気持ちになってしまった部分はあったのですが、こんなに悔しいのは初めてだと思います」
悔しい、という言葉が出るのも勝負に持ち込めるところまで来たと感じているからにほかならない。
早田の言葉も手ごたえを得たことを示していた。
「ここまで競った試合ができたのは自分たちの成長かなと思います」
卓球は長年にわたり、組織だった強化を行ってきた。
1980年代、普及と育成を目的に小学生以下をはじめとする年代別の全国大会が設けられ、2001年には、小学生のナショナルチームを結成し合宿を開催するなど育成に力を注いだ。
一方で、幼少期から猛練習を積み重ねて台頭する選手たちもいた。その両輪があって全体としての強化が進んだ。
やがて国際大会で好成績をあげるようになると、中国を倒すことが卓球界全体の目標となっていった。中国から指導者を呼んで、あるいは中国に渡り彼の地ののリーグに参戦して成長を志す選手もいた。
そして少しずつ中国勢に食い下がる選手が現れ、今日に至っている。
パリオリンピックのシングルスは早田ひな、平野美宇。団体戦では張本美和が加わる。その団体戦で日本は第2シード。第1シードの中国とは、順調に勝ち上がれば決勝であたることになる。
シングルス、団体戦双方で悲願をかなえることができるか。新たな歴史を築くべく、選手たちは臨む。
松原 孝臣
https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/82200