3年前の今ごろ、2016年12月のトップニュースは何だったかと振り返ってみると、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領訪日である。同大統領が、安倍晋三首相の地元、山口県に直接入り、長門市の温泉旅館で首脳会談を行うという異例の日程だった。
北方領土問題解決の道筋について、プーチン氏と胸襟を開いて会談したい−。安倍首相のこの思いに応えようと、地元も歓迎ムード一色となったが、プーチン氏の悪癖に水を差された。
プーチン氏を乗せた航空機が山口宇部空港へ到着したのは、予定から約3時間遅れ。ご一行が長門入りしたころには日も落ち、子供たちによる沿道での歓迎も中止となった。市民は落胆したという。
当時、大メディアはもちろん、筆者も「北方領土問題進展」の期待を込めて、安倍・プーチンの「蜜月」を好意的に報じた。だが、いまやこれを後悔し反省している。
3年後の今日、折しも茂木敏充外相がモスクワを訪れている。一方で17日、歯舞群島周辺の海域でタコ漁をしていた北海道根室市の漁船5隻が、ロシアの国境警備隊に拿捕(だほ)された。漁船は国後島へ連行された。
日本政府は「連行は受け入れられない」とし、菅義偉官房長官は18日の記者会見で「人道的観点からも早期に帰港できるように、ロシア側に引き続き働きかけを行っていきたい」と述べている。いつもながらのつつましい日本式「遺憾砲」である。
18日夜には、ロシア連邦保安庁サハリン州国境警備局が「未申告のタコ6トン余りが見つかった」と発表した。漁船の上での検査の映像や画像を公開したが、ロシア側のこの言い分を額面通り受け取ることはできない。この拿捕・連行は、日露協議を有利に進めんがための「カード」だったのかとも思われる。
報道では、同じ18日午前、モスクワで開かれた「貿易経済に関する政府間委員会」の様子も伝えられた。直後、茂木氏は「極東での日露協力の可能性を開花させるため、具体的な取り組みを促進する」と述べている。
この「日露協力」なる美名の実態は、もっぱら日本からロシアへの資本と技術の提供だ。医療システムの共同開発や液化天然ガス(LNG)開発など、8項目全体ですでに計200超ものプロジェクトが誕生している。
報道からは、茂木氏が拿捕された日本漁船5隻についてどの程度言及したかは不明だ。ただ、多少の言及があったにせよ、自国の船や国民を拿捕、拘束している国と、既定路線通りの「協力」を粛々と進める光景に強い違和感を禁じ得ない。
いま日中関係でも同じ光景が見られる。
多数の日本国民が事由不明なまま中国当局に拘束され、沖縄県・尖閣諸島周辺には連日、中国公船がわが物顔で侵入を繰り返している。こんななか、「習近平国家主席の国賓来日」が淡々粛々と進められている。
いかなるときも日本外交は既定路線を崩さず、紳士的でお行儀がいい。良き「ちゃぶ台返し」など決して起きない。
政府も財界関係者も先刻承知だろうが、ロシア経済は今年も低調だ。上半期の成長率は1%を切っている。喉から手が出るほど日本の金と技術が欲しいプーチン氏は、そんなときこそ「足元を見られてならじ」と、日本の船を拘束したのではないかという見方もできる。
そんなロシアの足元を、日本はいつ見返すのか。暗澹(あんたん)たる思いにとらわれるのは筆者だけではないだろう。
12/20(金) 16:56配信 夕刊フジ
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