暗闇の中に光る目、頭には枝分かれした角。県内では約100年前に絶滅したとされていたニホンジカの雄の姿が昨年11月下旬、大子町の最北にある八溝山付近の国有林で撮影された。
撮影したのは県内の国有林を管轄する茨城森林管理署(水戸市)。センサーカメラで撮影した。菊池毅・地域林政調整官は「予想はしていたが、やはり来ているのか……という思いでした」と話す。
県内では1920年代に常陸太田市や大子町で捕獲記録があるが、その後は野生のシカは絶滅したとされてきた。環境省などの野生動物の生息調査でも、県内は全国で唯一の空白県だ。
だが、ここ数年は目撃や撮影が相次いでいる。最初に撮影に成功したのは、国立研究開発法人の農研機構中央農業研究センター。一昨年の11月、やはり八溝山山頂付近で撮影した。3枚の写真に2頭の雄シカが写っていた。
シカはどこから来たのか? 可能性が高いとされているのが、大子町と県境を接する栃木県だ。
栃木県西部では80年代から生息数が増え、最近は県東部にまで広がっている。隣接する福島県南部もニホンジカの空白地域だったが、昨年から複数回、目撃や撮影をされており、県境を越えて来ているとみられている。
■食害、生態系の激変恐れ
生息域の拡大で最大の問題は「食害」だ。雌は1歳ごろから子どもを生み始め、寿命は15〜20年ある。増えたシカは農作物や林業への被害だけでなく、山の下草を食べ尽くすことで土壌流出にもつながっている。栃木県では2011年に922頭だった捕獲頭数を、17年には6088頭まで増やしたが、被害拡大は止まっていない。
懸念されるのは、八溝山山頂付近の生態系の保全だ。山頂付近は県内では数少ない手つかずの広葉樹林とされ、県自然公園の特別地域に指定されている。最初に撮影されたのはこの地域内だ。同センターの竹内正彦・鳥獣害グループ長は「対策を急がないと植生があっという間に変わってしまう」と訴える。
経済的損失の問題もある。県内の国有林の管理面積は4万5千ヘクタールと全国120森林管理署などで中位だが、木材の収穫量は約30万立方メートルと全国1位が続く。だが、シカは樹木の表皮を食べることで木材価値を下げるだけでなく、伐採後に植えた苗を食べてしまうという。
さらに、酪農が盛んな大子町では山裾まで牧草地が広がる。また特産のリンゴ畑も林地沿いまで迫っているため、エサには事欠かない。シカが苦手とする雪も少ないため、入り込んだら駆除は難しい。
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![【食害】暗闇の中に光る目…唯一の「シカ空白県」茨城で目撃情報 流入元は栃木か?100年前に茨城県内では絶滅 ->画像>4枚](https://www.asahicom.jp/articles/images/c_AS20190305002401_comm.jpg)
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2019年3月21日13時48分
朝日新聞デジタル
https://www.asahi.com/articles/ASM2H5SJWM2HUJHB00P.html