「不遇の世代」と呼ばれ、近年では「アラフォー・クライシス」と題してNHKが特集を組んだことでも話題を集める「就職氷河期世代」。ここに安倍政権がメスを入れるとし、5月29日には「就職氷河期世代」支援策を厚労省が公表した。
厚労省資料では、「就職氷河期世代」を“概ね1993〜2004年に学校卒業期を迎え、2019 年4月時点で、大卒の場合は37〜48歳、高卒で33〜44歳”の世代としている。バブル崩壊後の経済低迷期に就職のタイミングがぶち当たり、新卒で正社員に採用されずに不安定雇用に晒された。その結果、現在では〈35〜44歳の約1700万人のうち、非正規で働く人が317万人、フリーターは52万人、職探しをしていない人も40万人〉という現状となっている(朝日新聞5月30日付)。
そんななか、安倍首相は4月10日におこなわれた経済財政諮問会議において、民間議員からの提言を受け「氷河期世代への対応は国の将来に関わる重要な課題だ」と宣言。就職支援強化を関係閣僚に指示したのだ。
「何をいまさら」という気もするが、支援に取り組むことは悪いことではない──。と思っていたら、その内容に多くの人が反発。というのも、その中身があまりに杜撰でひどいからだ。
まず、唖然とするのが、この提言で「就職氷河期世代」を「人生再設計第一世代」と言い換えることを提唱したことだ。
戦争法案を「平和安全法制」、カジノを「統合型リゾート」だの、徴用工を「労働者」、最近では移民を「外国人材」と呼び変えてきたように、言い換えによって本質の問題をことごとくすり替えてきた安倍政権だが、今度は「人生再設計第一世代」って……。このネーミングには「バカにするのもほどがある」とネット上で反発が噴出した。
現在、TBSで放送中の吉高由里子主演のドラマ『わたし、定時で帰ります。』の原作者で、自身も「就職氷河期世代」である作家の朱野帰子氏は、「人生再設計第一世代」という言い換えについて、〈それが「就職氷河期世代」の新しい名称だとわかった時の感情は、言い表しようがありません〉と怒りをあらわにしている(現代ビジネス5月7日付)。
しかし、問題は人を食った言い換えだけではなかった。民間議員からの提言を踏まえて厚労省がまとめた支援プログラムやその報道を見ると、とてもじゃないが本気だとは思えないからだ。
たとえば、肝心の「対策の柱」というのは、人材不足となっている運輸や建設、農業などの業界団体等に委託するかたちで資格習得などをおこなう訓練コースの創設なるもの。また、〈人手不足業種との職場見学会付き面接会の開催〉などによって正社員就職を促進するとし、職業訓練やキャリア教育を人材派遣会社などに委託。また、正社員に採用した企業に1年限り最大60万円を支給している制度を拡充させるという。
支援策はこれだけにはとどまらないが、ようするに、「対策の柱」からして、外国人労働者の受け入れ拡大と同様、人材不足が叫ばれる業界をどうにかしようという意図しか見えてこないのだ。
こうした人手不足の職種は、労働環境の劣悪さや低賃金が指摘されている。それを法改正によって外国人労働者に担わせるばかりか、今度は「ワーキング・プア」層に狙いを定めた、というわけだ。人材不足に陥っている根本的な労働環境・条件という問題の改善策を打つでもなく、社会的弱者に押し付けてしまえばいいとは、あまりにも短絡的かつ酷すぎる。
2につづく
LITERA
2019.06.01 12:00
https://lite-ra.com/2019/06/post-4746.html
厚労省資料では、「就職氷河期世代」を“概ね1993〜2004年に学校卒業期を迎え、2019 年4月時点で、大卒の場合は37〜48歳、高卒で33〜44歳”の世代としている。バブル崩壊後の経済低迷期に就職のタイミングがぶち当たり、新卒で正社員に採用されずに不安定雇用に晒された。その結果、現在では〈35〜44歳の約1700万人のうち、非正規で働く人が317万人、フリーターは52万人、職探しをしていない人も40万人〉という現状となっている(朝日新聞5月30日付)。
そんななか、安倍首相は4月10日におこなわれた経済財政諮問会議において、民間議員からの提言を受け「氷河期世代への対応は国の将来に関わる重要な課題だ」と宣言。就職支援強化を関係閣僚に指示したのだ。
「何をいまさら」という気もするが、支援に取り組むことは悪いことではない──。と思っていたら、その内容に多くの人が反発。というのも、その中身があまりに杜撰でひどいからだ。
まず、唖然とするのが、この提言で「就職氷河期世代」を「人生再設計第一世代」と言い換えることを提唱したことだ。
戦争法案を「平和安全法制」、カジノを「統合型リゾート」だの、徴用工を「労働者」、最近では移民を「外国人材」と呼び変えてきたように、言い換えによって本質の問題をことごとくすり替えてきた安倍政権だが、今度は「人生再設計第一世代」って……。このネーミングには「バカにするのもほどがある」とネット上で反発が噴出した。
現在、TBSで放送中の吉高由里子主演のドラマ『わたし、定時で帰ります。』の原作者で、自身も「就職氷河期世代」である作家の朱野帰子氏は、「人生再設計第一世代」という言い換えについて、〈それが「就職氷河期世代」の新しい名称だとわかった時の感情は、言い表しようがありません〉と怒りをあらわにしている(現代ビジネス5月7日付)。
しかし、問題は人を食った言い換えだけではなかった。民間議員からの提言を踏まえて厚労省がまとめた支援プログラムやその報道を見ると、とてもじゃないが本気だとは思えないからだ。
たとえば、肝心の「対策の柱」というのは、人材不足となっている運輸や建設、農業などの業界団体等に委託するかたちで資格習得などをおこなう訓練コースの創設なるもの。また、〈人手不足業種との職場見学会付き面接会の開催〉などによって正社員就職を促進するとし、職業訓練やキャリア教育を人材派遣会社などに委託。また、正社員に採用した企業に1年限り最大60万円を支給している制度を拡充させるという。
支援策はこれだけにはとどまらないが、ようするに、「対策の柱」からして、外国人労働者の受け入れ拡大と同様、人材不足が叫ばれる業界をどうにかしようという意図しか見えてこないのだ。
こうした人手不足の職種は、労働環境の劣悪さや低賃金が指摘されている。それを法改正によって外国人労働者に担わせるばかりか、今度は「ワーキング・プア」層に狙いを定めた、というわけだ。人材不足に陥っている根本的な労働環境・条件という問題の改善策を打つでもなく、社会的弱者に押し付けてしまえばいいとは、あまりにも短絡的かつ酷すぎる。
2につづく
LITERA
2019.06.01 12:00
https://lite-ra.com/2019/06/post-4746.html