対トランプ 日本の課題<上>
石破首相はトランプ米大統領との首脳会談で安全保障と経済分野で日米の結束が揺るぎないことを示すことに成功した。常識破りで予測不能なトランプ氏に日本政府はどのような戦略で向き合ったのか。会談の背景と日米関係の今後を探る。
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「政治家のみならず民間人にも、閣下の就任を喜んでいる者はたくさんいます」
7日昼(日本時間8日未明)、ホワイトハウスの大統領執務室。緊張気味の首相はトランプ氏にこう語りかけた。トヨタ自動車の豊田章男会長の名前を挙げ、「米国にさらに多くの投資をし、雇用を作りたい」とのメッセージを伝えた。首相は訪米前、高校、大学の同級生である豊田氏とひそかに面会し、会談で提示する了承を取りつけていた。
米国の経済的利益を重視するトランプ氏の心をつかむための「土産」だった。首相がトヨタを含む複数の大型投資計画を列挙すると、トランプ氏は「素晴らしい人たちだ」と称賛した。
第1次政権以上に独善的な姿勢を強めるトランプ氏に首相が気に入らない人物と見なされれば、日米関係は不安定になり、国益を損ねる。日本政府は「絶対に負けられない戦い」との危機感を共有し、政官財で総力を結集する「オールジャパン」で準備を進めた。
首相の下に昨年12月からトランプ氏対策の少人数勉強会を設置。中心は林官房長官や第1次政権を熟知する外務や経済産業両省の幹部らだ。協力事項を掘り起こし、トランプ氏の思考回路に沿う想定問答を練った。
日本の対米投資を州ごとにまとめた全米地図や、過去30年間での対日貿易赤字の減少を示す資料など経済関連だけで7種類の資料を用意。日本製鉄によるUSスチールの買収計画の提起の仕方にも知恵を絞った。複数の他の投資計画と視覚に訴える資料でトランプ氏の歓心を買った上で、日鉄の計画も「買収ではなく投資だ」と説明し、軟化させる戦略で臨んだ。
会談直前、首相周辺は「100%の仕上がりだ」と自信を見せたが、首相は「何を言われるかわからないから怖い」とも周辺に吐露していた。
蓋を開けてみれば、トランプ氏は首相に礼節をもって接し、予想を超える盛り上がりを見せた。政府高官は「安倍・トランプ時代の後も日米関係は盤石だとのメッセージを世界に発信した」と意義を語る。もっとも、トランプ氏の本質の変化は容易に期待はできず、首相には今後も戦略的外交を徹底する覚悟が求められる。(政治部 海谷道隆)
読売新聞 2025/02/09 05:00
https://www.yomiuri.co.jp/politics/20250208-OYT1T50191/