温室効果ガスの削減強化には踏み込めず 目立った成果は基金設立のみ COP27閉幕
国連気候変動枠組み条約第27回締約国会議(COP27)は2日間の延長の末に閉幕した。議長国エジプトは「(約束を)実施するCOP」と位置付け、温暖化による「損失と被害」を救済する基金設立での合意に導いた。しかし温室効果ガス削減については前進がなく、一部から失望の声が漏れた。(シャルムエルシェイクで、蜘手美鶴)
◆「損失と被害」 パキスタンでは国土の3分の1が浸水
「基金設立は大きな成果だ。損失と被害への支援に向け、大きな突破口となる」。途上国の77カ国グループ(G77)と中国の首席交渉官であるパキスタンのナビール・ムニール氏は本紙取材に、安堵あんどの表情を見せた。基金設立を盛り込んだ成果文書は、20日午前まで夜通しの議論の末に採択にこぎ着けた。
パキスタンは今夏の大洪水で国土の3分の1が浸水した。世界銀行によると、被害額は約400億ドル(約5.6兆円)に上る。気候変動は、貧しい国をさらに厳しい状況に追い込んでいる。COP27では途上国や島しょ国の関係者らが、洪水や干ばつ、海面上昇などの深刻な被害を切々と訴えた。
先進国は2009年のCOP15で、途上国に年間1000億ドル(約14兆円)の資金援助を約束したが、この目標を達成した年は一度もない。COP27に対する途上国の期待は強く、ムニール氏は17日夜の全体会議で「われわれにとってCOP27での成功は、どんな支援を得られるかにかかっている」と訴えた。
◆途上国への交換条件は成果乏しく
一方で温室効果ガス削減に焦点を当てたい先進国には不満が残った。排出量削減の努力強化を訴えた欧州連合(EU)のティメルマンス代表は20日の閉幕式で「人々と地球にとって十分な前進ではない。強い失望を感じる」と厳しい表情で話した。
EUは17日夜、これまでの態度を一変させて基金設立の支持に回り、「交換条件」として温室効果ガスの削減強化などを求めた。しかし成果文書には、EUが求めた全ての化石燃料の削減や、新興国にも温室効果ガスの削減強化を求める内容はなかった。国連のグテレス事務総長も「排出量を大幅削減する必要があるが、COP27では取り上げられなかった」と述べた。
昨年のCOP26の成果文書では、産業革命前からの地球の平均気温上昇を「1.5度以内」にする目標が掲げられた。海面上昇に直面する島しょ国や先進国の一部はこの目標の強化も期待したが、今回の成果文書は「昨年の成果文書をほぼ切り張りした内容」(NGO関係者)となった。
◆日本の存在感は薄いまま
「損失と被害」の基金を巡り、日本は人道支援などでの国際貢献をアピールしたが、一連の交渉での存在感は薄かった。岸田文雄首相は欠席し、西村明宏環境相も国会日程のため交渉の最終盤で帰国した。
日本が議長国となる来年の先進7カ国首脳会議(G7サミット)では、気候変動対策もテーマとなる見通しだが、日本は各国に後ろ向きな印象を残した。日本は化石燃料削減に向けた努力が欠けているとして、アフリカのNGO関係者などから批判の声も上がった。
東京新聞 2022年11月21日 06時00分
https://www.tokyo-np.co.jp/article/215123
国連気候変動枠組み条約第27回締約国会議(COP27)は2日間の延長の末に閉幕した。議長国エジプトは「(約束を)実施するCOP」と位置付け、温暖化による「損失と被害」を救済する基金設立での合意に導いた。しかし温室効果ガス削減については前進がなく、一部から失望の声が漏れた。(シャルムエルシェイクで、蜘手美鶴)
◆「損失と被害」 パキスタンでは国土の3分の1が浸水
「基金設立は大きな成果だ。損失と被害への支援に向け、大きな突破口となる」。途上国の77カ国グループ(G77)と中国の首席交渉官であるパキスタンのナビール・ムニール氏は本紙取材に、安堵あんどの表情を見せた。基金設立を盛り込んだ成果文書は、20日午前まで夜通しの議論の末に採択にこぎ着けた。
パキスタンは今夏の大洪水で国土の3分の1が浸水した。世界銀行によると、被害額は約400億ドル(約5.6兆円)に上る。気候変動は、貧しい国をさらに厳しい状況に追い込んでいる。COP27では途上国や島しょ国の関係者らが、洪水や干ばつ、海面上昇などの深刻な被害を切々と訴えた。
先進国は2009年のCOP15で、途上国に年間1000億ドル(約14兆円)の資金援助を約束したが、この目標を達成した年は一度もない。COP27に対する途上国の期待は強く、ムニール氏は17日夜の全体会議で「われわれにとってCOP27での成功は、どんな支援を得られるかにかかっている」と訴えた。
◆途上国への交換条件は成果乏しく
一方で温室効果ガス削減に焦点を当てたい先進国には不満が残った。排出量削減の努力強化を訴えた欧州連合(EU)のティメルマンス代表は20日の閉幕式で「人々と地球にとって十分な前進ではない。強い失望を感じる」と厳しい表情で話した。
EUは17日夜、これまでの態度を一変させて基金設立の支持に回り、「交換条件」として温室効果ガスの削減強化などを求めた。しかし成果文書には、EUが求めた全ての化石燃料の削減や、新興国にも温室効果ガスの削減強化を求める内容はなかった。国連のグテレス事務総長も「排出量を大幅削減する必要があるが、COP27では取り上げられなかった」と述べた。
昨年のCOP26の成果文書では、産業革命前からの地球の平均気温上昇を「1.5度以内」にする目標が掲げられた。海面上昇に直面する島しょ国や先進国の一部はこの目標の強化も期待したが、今回の成果文書は「昨年の成果文書をほぼ切り張りした内容」(NGO関係者)となった。
◆日本の存在感は薄いまま
「損失と被害」の基金を巡り、日本は人道支援などでの国際貢献をアピールしたが、一連の交渉での存在感は薄かった。岸田文雄首相は欠席し、西村明宏環境相も国会日程のため交渉の最終盤で帰国した。
日本が議長国となる来年の先進7カ国首脳会議(G7サミット)では、気候変動対策もテーマとなる見通しだが、日本は各国に後ろ向きな印象を残した。日本は化石燃料削減に向けた努力が欠けているとして、アフリカのNGO関係者などから批判の声も上がった。
東京新聞 2022年11月21日 06時00分
https://www.tokyo-np.co.jp/article/215123