日中国交正常化50年の今も各地で続く、中国からの強制連行犠牲者慰霊祭の実情…でも国民感情は互いに悪化
日中関係改善の兆しが見えないまま、先月迎えた国交正常化50周年。そんな中、戦時中に中国から強制連行された犠牲者の慰霊祭が各地で行われている。過酷な条件で鉱山や工事現場で働いた人々の歴史は戦後77年を経て風化が進むが、市民らが地道に活動を続けている。(特別報道部・大杉はるか)
◆群馬県みなかみ町で慰霊祭「継承が一番課題」
今月9日、群馬県みなかみ町で、強制労働で死亡した中国人の68回目の慰霊祭があった。主催した日本中国友好協会県連合会の羽鳥知容とものり会長(75)によると、同県では1944年4、5月に計606人の中国人が岩本水力発電所に連行され、水路掘削工事などで43人が死亡。中島飛行機地下工場の建設でも10人が死亡し、陸軍の弾薬庫の建設にも動員された。
慰霊祭には33人が出席したが、会員は高齢化が進む。羽鳥さんは「新しい人も入るが、継承が一番課題」と語る。
太平洋戦争中の42年、東条内閣は不足した労働力を補うため「華人労務者内地移入に関する件」を閣議決定し、中国人の強制連行を開始。43年から敗戦までに3万8935人が、35社・135事業所に動員された。
◆資金が底をつき開催できなくなった例も
追悼行事は各地で行われている。秋田県大館市では、終戦直前に中国人約800人が蜂起し、うち400人超が犠牲になった花岡事件の慰霊式を毎年開催。今年も6月に行い、遺族3人や中国大使館職員、市民ら約150人が参列した。市の担当者は「この事件を風化させないという思いで、今後も継続する」と語る。愛媛県新居浜市でも今月1日、別子銅山に連行された中国人の慰霊祭があった。
一方、栃木県日光市の足尾銅山では慰霊塔前で旧足尾町主催の慰霊祭が行われていたが、資金が底をつき87年が最後となった。「足尾の環境と歴史を考える会」の上岡健司氏(89)によると、連行された257人のうち110人が死亡。多くは栄養失調だったという。足尾で育った上岡氏は「朝鮮人や白人もいたが、1番悲惨だったのは中国人。捕虜だから隔絶され、憲兵隊に管理されていた」と説明する。
90年代には、被害者による賠償請求訴訟が全国で起きた。「日中共同声明で請求権は放棄されている」などとして訴えを退ける判決が相次いだが、企業と元労働者の和解が成立するケースもあった。
◆専門家「日本が変わらないと」
だが、日中関係に改善の兆しはない。「言論NPO」の日中共同世論調査(昨年8~9月調査)で相手国に「良くない」印象を持つ人の割合は、日本人が前年比1.2ポイント増の90.9%で、「領海や領空をたびたび侵犯しているから」といった理由が多数。中国人も同13.2ポイント増の66.1%と悪化し、「歴史を謝罪し反省していない」といった理由を挙げている。
先月29日で国交正常化50周年となった。元広島市立大広島平和研究所所長の浅井基文氏は「日中友好運動は関係者の努力で続いているが、以前は世論の広がりがあった。今は残念ながら一部にとどまる」と指摘。背景として「安倍政権時代の反中政策と、米政権の中国敵対政策の増幅がある」と説明する。ウクライナ問題などで同盟相手の米国に遠慮しない外交を展開するトルコを引き合いに「日米関係があるから動けないというのは通らない。日本が変わらないと」と説く。
東京新聞 2022年10月15日 06時00分
https://www.tokyo-np.co.jp/article/208245
日中関係改善の兆しが見えないまま、先月迎えた国交正常化50周年。そんな中、戦時中に中国から強制連行された犠牲者の慰霊祭が各地で行われている。過酷な条件で鉱山や工事現場で働いた人々の歴史は戦後77年を経て風化が進むが、市民らが地道に活動を続けている。(特別報道部・大杉はるか)
◆群馬県みなかみ町で慰霊祭「継承が一番課題」
今月9日、群馬県みなかみ町で、強制労働で死亡した中国人の68回目の慰霊祭があった。主催した日本中国友好協会県連合会の羽鳥知容とものり会長(75)によると、同県では1944年4、5月に計606人の中国人が岩本水力発電所に連行され、水路掘削工事などで43人が死亡。中島飛行機地下工場の建設でも10人が死亡し、陸軍の弾薬庫の建設にも動員された。
慰霊祭には33人が出席したが、会員は高齢化が進む。羽鳥さんは「新しい人も入るが、継承が一番課題」と語る。
太平洋戦争中の42年、東条内閣は不足した労働力を補うため「華人労務者内地移入に関する件」を閣議決定し、中国人の強制連行を開始。43年から敗戦までに3万8935人が、35社・135事業所に動員された。
◆資金が底をつき開催できなくなった例も
追悼行事は各地で行われている。秋田県大館市では、終戦直前に中国人約800人が蜂起し、うち400人超が犠牲になった花岡事件の慰霊式を毎年開催。今年も6月に行い、遺族3人や中国大使館職員、市民ら約150人が参列した。市の担当者は「この事件を風化させないという思いで、今後も継続する」と語る。愛媛県新居浜市でも今月1日、別子銅山に連行された中国人の慰霊祭があった。
一方、栃木県日光市の足尾銅山では慰霊塔前で旧足尾町主催の慰霊祭が行われていたが、資金が底をつき87年が最後となった。「足尾の環境と歴史を考える会」の上岡健司氏(89)によると、連行された257人のうち110人が死亡。多くは栄養失調だったという。足尾で育った上岡氏は「朝鮮人や白人もいたが、1番悲惨だったのは中国人。捕虜だから隔絶され、憲兵隊に管理されていた」と説明する。
90年代には、被害者による賠償請求訴訟が全国で起きた。「日中共同声明で請求権は放棄されている」などとして訴えを退ける判決が相次いだが、企業と元労働者の和解が成立するケースもあった。
◆専門家「日本が変わらないと」
だが、日中関係に改善の兆しはない。「言論NPO」の日中共同世論調査(昨年8~9月調査)で相手国に「良くない」印象を持つ人の割合は、日本人が前年比1.2ポイント増の90.9%で、「領海や領空をたびたび侵犯しているから」といった理由が多数。中国人も同13.2ポイント増の66.1%と悪化し、「歴史を謝罪し反省していない」といった理由を挙げている。
先月29日で国交正常化50周年となった。元広島市立大広島平和研究所所長の浅井基文氏は「日中友好運動は関係者の努力で続いているが、以前は世論の広がりがあった。今は残念ながら一部にとどまる」と指摘。背景として「安倍政権時代の反中政策と、米政権の中国敵対政策の増幅がある」と説明する。ウクライナ問題などで同盟相手の米国に遠慮しない外交を展開するトルコを引き合いに「日米関係があるから動けないというのは通らない。日本が変わらないと」と説く。
東京新聞 2022年10月15日 06時00分
https://www.tokyo-np.co.jp/article/208245