宮城県内有数のナシの産地、利府町。唯一の特産品で町のシンボルでもあるが、生産者の高齢化や後継者不足で、ピーク時の1960年代に60ヘクタール以上あった栽培面積は3分の1以下になった。ナシ栽培の新たな担い手として期待を集めた地域おこし協力隊は夢破れ、町外で就農した。衰退に歯止めがかからない「利府梨」の存続が危ぶまれている。(多賀城支局・石川遥一朗)
面積増やすなら飛び地に
9月上旬、一粒も実っていない角田市のナシ畑で、元利府町地域おこし協力隊の吉川一利さん(33)が手入れに汗を流していた。今は角田市の協力隊員だ。
畑は耕作放棄地。復活させるため、春に全ての実を摘んで養分を木の成長に回した。今年の収穫は諦めざるを得ないが、吉川さんは角田でナシ農家としての未来図を描く。
2019年、吉川さんは東京から移住し、利府町初の協力隊員になった。ナシ農家を目指したが、21年冬までに確保できたナシ畑は約20アールのみ。引退する農家から畑を引き継ぐ算段だったがタイミングが合わず、栽培面積は伸びなかった。
ナシで生計を立てるには栽培面積が小さ過ぎる。不安を募らせた吉川さんは90アールのナシ畑を借りられる角田市に21年末、転居した。
20年の農林業センサスによると、ナシの栽培面積が県内トップの蔵王町は5889アールで経営体数は73。2位の利府町は1958アールで同57、3位の角田市は1580アールで同13。単純に栽培面積を経営体数で割った平均面積は角田121アール、蔵王80アールに対して利府は34アールにとどまる。
家族経営の小規模な農家が多い利府は、20~30アールほどのナシ畑が丘陵地などに点在。栽培面積を拡大しようとすると飛び地で増やすしかなく、作業効率は悪い。水道設備が未整備の畑も少なくない。
「農家としての将来を考えると、整備された広大な畑は欠かせない」。吉川さんは指摘する。
平均69・9歳、高齢化著しく
利府梨はほぼ全量が直売所や贈答用でさばかれる。秋になると町内の幹線道路に直売所が並び、「梨街道」とも呼ばれる。
広く利府梨をアピールする熊谷大町長の効果か、近年は大半の直売所が昼には完売となる。JA仙台利府地区梨部会長の赤間良一さん(67)は「『利府梨を食べたくても買えない』と客から苦情が寄せられる」と明かす。
町によると、ナシ農家の平均年齢は69・9歳と高齢化が著しい。自分の代で栽培を終わらせるという農家が大半で、面積も収穫量も減り続けている。
生産を増やそうと2、3年前、町内のナシ畑の規模を拡大する「団地化」の話が出たが、賛同する農家が少なく前に進まなかった。赤間さんは「現状への満足度が高く、あと何年栽培を続けるか分からない農家が新たな挑戦はしづらい」と語る。
「10、20年で危機的な状況に陥る」と町は危機感を募らせる。町農林水産課の高橋活博課長は「町外からの新規就農者を増やす方法を模索していく」と話す。
若手農家からは町への注文も。「特産と言うからには町は本気で農家に寄り添ってほしい」。引地崇さん(40)は農地の整備拡大や、新規就農者が軌道に乗るまでの助成を提案する。
消滅の危機が確実に迫る利府梨。町の特産を維持するため、PR活動とともに抜本的な施策が急がれる。
河北新報 2022年10月10日 6:00
https://kahoku.news/articles/20221010khn000004.html
面積増やすなら飛び地に
9月上旬、一粒も実っていない角田市のナシ畑で、元利府町地域おこし協力隊の吉川一利さん(33)が手入れに汗を流していた。今は角田市の協力隊員だ。
畑は耕作放棄地。復活させるため、春に全ての実を摘んで養分を木の成長に回した。今年の収穫は諦めざるを得ないが、吉川さんは角田でナシ農家としての未来図を描く。
2019年、吉川さんは東京から移住し、利府町初の協力隊員になった。ナシ農家を目指したが、21年冬までに確保できたナシ畑は約20アールのみ。引退する農家から畑を引き継ぐ算段だったがタイミングが合わず、栽培面積は伸びなかった。
ナシで生計を立てるには栽培面積が小さ過ぎる。不安を募らせた吉川さんは90アールのナシ畑を借りられる角田市に21年末、転居した。
20年の農林業センサスによると、ナシの栽培面積が県内トップの蔵王町は5889アールで経営体数は73。2位の利府町は1958アールで同57、3位の角田市は1580アールで同13。単純に栽培面積を経営体数で割った平均面積は角田121アール、蔵王80アールに対して利府は34アールにとどまる。
家族経営の小規模な農家が多い利府は、20~30アールほどのナシ畑が丘陵地などに点在。栽培面積を拡大しようとすると飛び地で増やすしかなく、作業効率は悪い。水道設備が未整備の畑も少なくない。
「農家としての将来を考えると、整備された広大な畑は欠かせない」。吉川さんは指摘する。
平均69・9歳、高齢化著しく
利府梨はほぼ全量が直売所や贈答用でさばかれる。秋になると町内の幹線道路に直売所が並び、「梨街道」とも呼ばれる。
広く利府梨をアピールする熊谷大町長の効果か、近年は大半の直売所が昼には完売となる。JA仙台利府地区梨部会長の赤間良一さん(67)は「『利府梨を食べたくても買えない』と客から苦情が寄せられる」と明かす。
町によると、ナシ農家の平均年齢は69・9歳と高齢化が著しい。自分の代で栽培を終わらせるという農家が大半で、面積も収穫量も減り続けている。
生産を増やそうと2、3年前、町内のナシ畑の規模を拡大する「団地化」の話が出たが、賛同する農家が少なく前に進まなかった。赤間さんは「現状への満足度が高く、あと何年栽培を続けるか分からない農家が新たな挑戦はしづらい」と語る。
「10、20年で危機的な状況に陥る」と町は危機感を募らせる。町農林水産課の高橋活博課長は「町外からの新規就農者を増やす方法を模索していく」と話す。
若手農家からは町への注文も。「特産と言うからには町は本気で農家に寄り添ってほしい」。引地崇さん(40)は農地の整備拡大や、新規就農者が軌道に乗るまでの助成を提案する。
消滅の危機が確実に迫る利府梨。町の特産を維持するため、PR活動とともに抜本的な施策が急がれる。
河北新報 2022年10月10日 6:00
https://kahoku.news/articles/20221010khn000004.html