事業構想 2022年5月号 量子水素エネルギー 大学との共同研究で世界に先駆けた実用化
吉野 英樹(クリーンプラネット代表取締役社長)
クリーンプラネットが開発するのは、二酸化炭素(CO2)を排出せず、安全・安定・安価な「量子水素エネルギー」。
取得した特許は48件、まずは小型ボイラーから実用化し、脱炭素社会の熱利用への貢献を目指す。
「2011年3月11日の福島第一原子力発電所の事故を機に、安全かつサステナブルで、安価で普及しやすいエネルギーが必要だと強く感じました。
その後は多くの専門家に話を伺う中、凝縮系核反応と出会い、大きな可能性を感じました」。
凝縮系核反応の分野では1989年に、欧米の研究者による「常温核融合騒動」といわれる事件が起きており、世界での評価は否定的だった。
「大きなスキャンダルがあり、その手法での実用化の可能性は否定されたものの、その後も一流の研究者によって研究が続けられていました。
私は2010年ごろに調査をはじめ、凝縮系核反応は絶対ものになるという印象を持ちました。
1989年の騒動については詳細を知らなかったので、むしろ誰も目を付けていない事業を始めることにワクワクしていました。
今考えると、世間には事件による先入観があり、それが心の参入障壁になっていたのだと思います」
クリーンプラネットでは、量子水素エネルギーの研究開発を進め、実験機の作成と継続的な発熱や、その効率向上 に科学者とエンジニアが取り組んでいる
「最初は『常温核融合』という言葉を用いていましたが、実際のところ常温ではなく、また核融合が起きていると確認できたわけでもありません。
とはいえ、量子トンネル効果は確実に起きており、水素を使っているため、呼称は『量子水素エネルギー』としました」。
吉野氏は、研究開発の現状について「現在、神奈川県川崎市で行っている実験では、2021年5月から発熱が継続しています。
発熱エネルギー量は都市ガスをはるかに上回るものです」と説明した。
国内のエネルギー消費では、56%を熱が占めている。
このため、クリーンプラネットではまず「量子水素エネルギー熱」を作り、温室効果ガスの排出削減に貢献していく方針だ。
2021年9月には小型の貫流ボイラーで国内No.1のシェアを持つ三浦工業と、量子水素エネルギーを利用した産業用ボイラーの共同開発契約を結んだ。
2022年は、量子水素エネルギーで発熱する1kWモデルと10kWモデルのデバイスを完成させ、2023〜24年にかけて実用化モデルの完成を目指している。
熱核融合では、フランスに建設中のITER計画による実験炉が2025年にも稼働を始める予定だ。
「凝縮系核反応の分野でも、そろそろ大企業が動き出しそうです。
これまでの、隠された居心地が良いところから出ることになり、ワクワク感があります。
一方で、開発競争が一気に国際的にも激しくなる恐れもあって、今はその狭間にいる感じです」と吉野氏は話す。
将来は量子水素エネルギーが国内の主要な熱源になることを目指すと共に、国内外の大企業とも提携し、世界的な展開を図りたいという。
https://www.projectdesign.jp/articles/85c46230-610f-4ec3-88bc-a1e72060e286