高齢者接種の医師「毎日ヒヤヒヤ」 医療者への接種、わずか2割
毎日新聞 2021/5/8 20:13(最終更新 5/9 07:47)
https://mainichi.jp/articles/20210508/k00/00m/040/205000c
高齢者に対する新型コロナウイルス感染症のワクチン接種が進む中、感染対策の最前線に立つ医療従事者が依然として感染リスクにさらされている。2回目の接種を終えた医療従事者は対象者の2割程度にとどまる。自身がワクチン接種を受ける前に接種に従事するケースも少なくなく、専門家は「医療体制の逼迫(ひっぱく)につながりかねない」と指摘する。
「誰が持っているか分からない」
国内で現在使われているワクチンは、米製薬大手ファイザー社製で2回の接種が必要とされる。厚生労働省によると、優先接種の対象となる医療従事者は全国で約480万人に上る。医療従事者に対するワクチンの優先接種は2月17日に始まり、接種を2回済ませたのは今月6日時点で110万人余。医療従事者全体の接種が済むまでにはなお時間を要する。65歳以上の高齢者へのワクチン接種は、この間の4月12日にスタートしている。
広島県海田町の「しらね泌尿器科クリニック」医師の白根猛さん(61)は、自身がワクチン接種を済ませる前に、今月19日に地元で実施される集団接種に携わることになりそうだ。これまで新型コロナの感染者を診察する機会がなかったため、少しでも役に立とうと、集団接種への参加を申し出た。だが8日現在、自身が接種を受ける日程は決まっていない。仮に集団接種に先立ち接種が受けられても、抗体ができるまでには時間がかかる。「感染が広がる中、誰がウイルスを持っているか分からない怖さがある」とため息をつく。
大阪市平野区の介護老人保健施設「おとしよりすこやかセンター南部館」施設長で医師の中澤秀夫さん(77)も、未接種のままで接種を担当した。4月14日から施設入所者へのワクチン接種に取り組み、自身が1回目の接種を受けたのは8日後だったという。
医療従事者への接種が遅れている現状に違和感を覚える中澤さん。「職員みんなが毎日ヒヤヒヤしながら出勤している。感染対策をしてもどこでウイルスをもらってくるか分からない」と吐露し、一刻も早く入所者も職員もワクチンの接種を受けられることを望む。
高齢者向けを転用の動き
最前線で危険にさらされる医療従事者の不安に応えようと、高齢者向けに供給されたワクチンを医療従事者に転用する動きもある。
茨城県日立市は「医師らが感染すると、高齢者接種が進まなくなる」として、4月に届いた高齢者向けの2割を医療従事者に振り分けた。5月末までに市内の医療従事者約6000人への接種を終える見通しだ。宮城県気仙沼市でも4月、接種を済ませていない開業医らを対象に、高齢者用に準備したワクチンを打った。
感染症に詳しいけいゆう病院(横浜市)の菅谷憲夫医師は「医療従事者が新型コロナに感染すると、ワクチン接種や治療が滞り、医療体制の逼迫につながりかねない。政府は医療従事者への接種を優先する姿勢を明確にし、最前線の医師らの感染リスクを低下させるべきだ」と指摘する。【李英浩、井口慎太郎】
毎日新聞 2021/5/8 20:13(最終更新 5/9 07:47)
https://mainichi.jp/articles/20210508/k00/00m/040/205000c
高齢者に対する新型コロナウイルス感染症のワクチン接種が進む中、感染対策の最前線に立つ医療従事者が依然として感染リスクにさらされている。2回目の接種を終えた医療従事者は対象者の2割程度にとどまる。自身がワクチン接種を受ける前に接種に従事するケースも少なくなく、専門家は「医療体制の逼迫(ひっぱく)につながりかねない」と指摘する。
「誰が持っているか分からない」
国内で現在使われているワクチンは、米製薬大手ファイザー社製で2回の接種が必要とされる。厚生労働省によると、優先接種の対象となる医療従事者は全国で約480万人に上る。医療従事者に対するワクチンの優先接種は2月17日に始まり、接種を2回済ませたのは今月6日時点で110万人余。医療従事者全体の接種が済むまでにはなお時間を要する。65歳以上の高齢者へのワクチン接種は、この間の4月12日にスタートしている。
広島県海田町の「しらね泌尿器科クリニック」医師の白根猛さん(61)は、自身がワクチン接種を済ませる前に、今月19日に地元で実施される集団接種に携わることになりそうだ。これまで新型コロナの感染者を診察する機会がなかったため、少しでも役に立とうと、集団接種への参加を申し出た。だが8日現在、自身が接種を受ける日程は決まっていない。仮に集団接種に先立ち接種が受けられても、抗体ができるまでには時間がかかる。「感染が広がる中、誰がウイルスを持っているか分からない怖さがある」とため息をつく。
大阪市平野区の介護老人保健施設「おとしよりすこやかセンター南部館」施設長で医師の中澤秀夫さん(77)も、未接種のままで接種を担当した。4月14日から施設入所者へのワクチン接種に取り組み、自身が1回目の接種を受けたのは8日後だったという。
医療従事者への接種が遅れている現状に違和感を覚える中澤さん。「職員みんなが毎日ヒヤヒヤしながら出勤している。感染対策をしてもどこでウイルスをもらってくるか分からない」と吐露し、一刻も早く入所者も職員もワクチンの接種を受けられることを望む。
高齢者向けを転用の動き
最前線で危険にさらされる医療従事者の不安に応えようと、高齢者向けに供給されたワクチンを医療従事者に転用する動きもある。
茨城県日立市は「医師らが感染すると、高齢者接種が進まなくなる」として、4月に届いた高齢者向けの2割を医療従事者に振り分けた。5月末までに市内の医療従事者約6000人への接種を終える見通しだ。宮城県気仙沼市でも4月、接種を済ませていない開業医らを対象に、高齢者用に準備したワクチンを打った。
感染症に詳しいけいゆう病院(横浜市)の菅谷憲夫医師は「医療従事者が新型コロナに感染すると、ワクチン接種や治療が滞り、医療体制の逼迫につながりかねない。政府は医療従事者への接種を優先する姿勢を明確にし、最前線の医師らの感染リスクを低下させるべきだ」と指摘する。【李英浩、井口慎太郎】