文部科学省は20日の参院内閣委員会で、全国30の国立大学が2020年度、授業料の免除を申請した学生の個人情報を記録したファイルを外部に提供しようとしていたと明らかにした。デジタル庁創設や個人情報保護法改正を盛り込んだデジタル改革関連法案の審議の中で、共産党の田村智子参院議員の質問に答えた。大阪大や北海道大は障害者の家族の有無や生活保護の有無などを記録したファイルを提供対象にしており、個人情報保護のあり方が問われそうだ。【大場伸也、古川宗】
国が保有する個人情報については、省庁など国の機関が情報提供できるファイルなどの一覧を示し、民間からそれらを使った利活用の提案の応募があった場合、審査を経て提供する仕組みが17年度からスタートしている。
政府の個人情報保護委員会の20年度資料によると、阪大は提供対象の一つとして「授業料免除ファイル」を示したが、内容は1)家族の収入2)母子・父子世帯該当の有無3)障害者世帯の有無4)生活保護世帯の有無――などの個人情報が含まれていた。北大もほぼ同じ項目を記録したファイルを提供対象とし、東京大も「障害疾病被爆関係事項」などを記録した「授業料免除申請者ファイル」を対象として示した。
授業料免除ファイル以外にも、健康診断の結果(京都大や九州大)、図書館の貸し出し履歴(宇都宮大)、就職相談の内容(阪大)、大学センター試験や2次学力試験の得点(東大)といった個人情報が民間への提供対象になった。
こうした個人情報について、提供を希望する民間事業者から応募がなかったため、実際には提供されてはいないという。
田村氏は参院内閣委で「当事者の知らないところで学生の情報が利活用される。プライバシー侵害ではないか」などと追及。平井卓也デジタル改革担当相は「特定の個人が識別できず、復元できないように加工する。個人の利益が侵害されることはない」との答弁を繰り返し、理解を求めた。
だが、個人情報保護法は取り扱いに配慮を要する「要配慮個人情報」として、人種、信条、社会的身分、病歴に加え、身体障害、知的障害、精神障害等の障害があることや健康診断その他の検査の結果――などを定めており、これらの情報が含まれる可能性がある。
個人情報保護に詳しい三宅弘弁護士は「きわめてセンシティブな情報で、大学側は学生本人から同意を取り付ける努力をしたのか、学生のプライバシー権に十分配慮したのかが問われる」と述べたうえで、「情報を加工すれば大丈夫だと言うが、大学という対象者が限られる情報なので、デジタル技術が進歩する中、いくつかの情報を連携させれば個人が特定される危険性もある」と指摘した。
個人情報の取り扱いを巡っては、防衛省も米軍横田基地(東京都)や航空自衛隊小松基地(石川県)に関する訴訟の原告団名簿を17年度から提供対象にしていた。
田村氏が14日の参院本会議で指摘し、菅義偉首相は「開示できる箇所が非常に限られていることなどを総合的に勘案した」と釈明。21年度からこれらの個人情報を提供対象から外す方針を示した。防衛省によると、民間事業者から応募はなく、実際に個人情報を提供してはいなかった。
毎日新聞 2021/4/20 21:42(最終更新 4/20 22:26)
https://mainichi.jp/articles/20210420/k00/00m/010/308000c
国が保有する個人情報については、省庁など国の機関が情報提供できるファイルなどの一覧を示し、民間からそれらを使った利活用の提案の応募があった場合、審査を経て提供する仕組みが17年度からスタートしている。
政府の個人情報保護委員会の20年度資料によると、阪大は提供対象の一つとして「授業料免除ファイル」を示したが、内容は1)家族の収入2)母子・父子世帯該当の有無3)障害者世帯の有無4)生活保護世帯の有無――などの個人情報が含まれていた。北大もほぼ同じ項目を記録したファイルを提供対象とし、東京大も「障害疾病被爆関係事項」などを記録した「授業料免除申請者ファイル」を対象として示した。
授業料免除ファイル以外にも、健康診断の結果(京都大や九州大)、図書館の貸し出し履歴(宇都宮大)、就職相談の内容(阪大)、大学センター試験や2次学力試験の得点(東大)といった個人情報が民間への提供対象になった。
こうした個人情報について、提供を希望する民間事業者から応募がなかったため、実際には提供されてはいないという。
田村氏は参院内閣委で「当事者の知らないところで学生の情報が利活用される。プライバシー侵害ではないか」などと追及。平井卓也デジタル改革担当相は「特定の個人が識別できず、復元できないように加工する。個人の利益が侵害されることはない」との答弁を繰り返し、理解を求めた。
だが、個人情報保護法は取り扱いに配慮を要する「要配慮個人情報」として、人種、信条、社会的身分、病歴に加え、身体障害、知的障害、精神障害等の障害があることや健康診断その他の検査の結果――などを定めており、これらの情報が含まれる可能性がある。
個人情報保護に詳しい三宅弘弁護士は「きわめてセンシティブな情報で、大学側は学生本人から同意を取り付ける努力をしたのか、学生のプライバシー権に十分配慮したのかが問われる」と述べたうえで、「情報を加工すれば大丈夫だと言うが、大学という対象者が限られる情報なので、デジタル技術が進歩する中、いくつかの情報を連携させれば個人が特定される危険性もある」と指摘した。
個人情報の取り扱いを巡っては、防衛省も米軍横田基地(東京都)や航空自衛隊小松基地(石川県)に関する訴訟の原告団名簿を17年度から提供対象にしていた。
田村氏が14日の参院本会議で指摘し、菅義偉首相は「開示できる箇所が非常に限られていることなどを総合的に勘案した」と釈明。21年度からこれらの個人情報を提供対象から外す方針を示した。防衛省によると、民間事業者から応募はなく、実際に個人情報を提供してはいなかった。
毎日新聞 2021/4/20 21:42(最終更新 4/20 22:26)
https://mainichi.jp/articles/20210420/k00/00m/010/308000c