【カイロ=蜘手美鶴】パレスチナ自治区ヨルダン川西岸のイスラエル管理地域で、今年のパレスチナ人家屋の取り壊し戸数が2017年のトランプ米大統領就任後では最多となった。一方でユダヤ人入植家屋の建設計画数は増加傾向を示しており、イスラエルは後ろ盾のトランプ氏が在職中に、「領土拡大」の既成事実化を図る思惑があるとみられる。
◆国連「占領地での取り壊しは国際法違反」
イスラエルのネタニヤフ首相は8月、アラブ首長国連邦(UAE)との国交正常化発表の際、ヨルダン川西岸のヨルダン渓谷などの併合計画を一時凍結することを表明。しかし同渓谷では今月3日、イスラエル軍のブルドーザーが住居や水場、小屋などを取り壊すなど併合への準備が進む。
地元の活動家は「土地の押収や家屋破壊が各地で急ピッチで進んでいる」と明かす。国連人道問題調整室(OCHA)によると、今年に入り西岸で取り壊された建築物は716件(10日現在)。OCHAは声明で「占領地での住民財産の取り壊しや強制移住は国際法違反である」と訴え、地域の学校建設を支援する欧州連合(EU)もイスラエルを非難、6日には欧州の外交使節団が現地を視察した。
◆駆け込み…イスラエルの入植は進む
イスラエルは「無許可建築物を壊しただけ」と説明するが、6割がイスラエル管理下の西岸では、建築申請をしても許可が出ないのが実態だ。監視団体「ピースナウ」によると、09年〜16年で許可が出たのは全体のわずか2%という。
その一方でイスラエルは10月中旬、新たに約5000戸の入植家屋の建設を承認した。「ピースナウ」によると、今年の建設計画は約1万2000戸で近年では最多。ヨルダン人評論家ザイド・ナワイサ氏は「入植計画に強い反対を示さないトランプ政権のうちに、一気に進めるつもりだろう」と指摘する。
東京新聞 2020年11月13日 06時00分
https://www.tokyo-np.co.jp/article/68042