泉佐野市、田尻町、熊取町が進める、老朽化に伴う新たな広域ごみ処理施設建設について説明を受ける地元住民ら=大阪府泉佐野市で2020年8月30日、鶴見泰寿撮影
泉佐野市、田尻町、熊取町の3市町は、老朽化に伴う新たな広域ごみ処理施設建設計画を進めている。2030年4月の稼働開始を目指すが、予定地の住民が「選定自体が疑問だ」と計画の見直しを求めている。施設の建設計画はこれまでに各市町の議会で報告されている。しかし予定地では一部住民にしか知らされておらず、その地域の一般住民への説明会も20年夏、ようやく始まり、3市町の市民に広く知れ渡っていないのが実情だ。専門家は「“迷惑施設”を一部住民に押しつけないように、オープンな場で予定地を議論するなど市民の声を反映させるべきだ」と提案する。【鶴見泰寿】
自治体「丁寧に説明したい」 住民「必要なことは分かる…」
「予定地は、土砂災害特別警戒区域で、地すべり危険箇所。明確な選定基準を示せ」「住民説明が遅すぎる」。8月30日に泉佐野市内で、地元町会が開いた3市町などの説明会に集まった住民から、建設反対を訴える声が相次いだ。
泉佐野市と田尻町のごみ処理施設は1986年に、熊取町の施設は92年にそれぞれ使われ始め、両施設とも耐用年数とされる20年が過ぎ、新施設の整備が急がれる。
泉佐野市と田尻町の施設を運営する広域組合は2014年度、熊取町に参画を打診。15年度に委託した大阪市のコンサルタント会社の調査で、3市町から法律、面積、地形などの条件で示された9候補地のうち、泉佐野市上之郷の旧泉佐野コスモポリス跡地に絞った。その後、熊取町は18年2月、正式に参画。232億5000万円をかけて9・3ヘクタールに新施設を整備する方針だ。予定地選定には、市民は関わっていなかった。
選定後の17年、泉佐野市と予定地の地元町会は、施設の建設に向けて、住民一人一人への丁寧な説明や住環境を守るなどを定めた覚書を交わした。町会は自治体側に説明会を求めてきたが、開かれなかった。町会が今年1月、組合からの資料を地元住民に配布し、そこで初めて計画を知った人が多く、動揺が広がった。説明会はその後、20年8月に始まった。当初、4月に予定していたが新型コロナウイルス感染拡大の影響で更に延び、覚書を結んでから、3年半が経過していた。
自治体側は熊取町の参画で、1市2町のごみの量の再試算に伴う施設規模▽焼却処理方式――などの検討を重ねており、担当者は「より具体化した段階で説明会を予定していた」と開催が今夏になった理由の一端を語る。
地元町会は4〜5月に全78世帯にアンケートし、約8割となる57世帯から回答を得た。「反対」が54%で、「懸念」などを含めると「賛成できない」が100%だった。これを受け、町会は6月、建設計画の対策委員会を設置して自治体側に予定地の選定見直しを求めている。
8月の説明会では、住民から「予定地の変更はあるのか」との質問に、自治体側は「(21年度予定の)環境調査で問題が出ない限り変更はない」との見解を示し、平行線をたどった。説明会は今後も開かれる予定。
摂南大の増田知也講師(地方自治論)は自治体は法律上、市民の同意を得なくてもごみ処理施設をつくることができるとしながらも、自治体側の建設に向けた「手順に問題がある」と説明。老朽化で新たな施設をつくらなければならないと判断した時点で「市民に広く必要性を明らかにすべきだった」と語る。
また、増田講師は「当事者の地域の声を無視すべきではない」と訴える。予定地選びの委員会を改めて設置し、住民を参画させる工夫をするなどして「建設に向けて透明性のある説明が市民になければ将来、わだかまりが残り続ける」と警鐘を鳴らす。
自治体側は「どんなに時間をかけてでも丁寧に説明したい」とする。一方、町会役員はこう訴える。「施設が必要なことは分かっている。しかし、次の世代に地元の住環境を守る責任がある。泉佐野、田尻、熊取の全住民に、せめて我々が置かれている現状だけでも知ってほしい」
毎日新聞 2020年9月28日
https://mainichi.jp/articles/20200928/ddl/k27/010/166000c?inb=ra
泉佐野市、田尻町、熊取町の3市町は、老朽化に伴う新たな広域ごみ処理施設建設計画を進めている。2030年4月の稼働開始を目指すが、予定地の住民が「選定自体が疑問だ」と計画の見直しを求めている。施設の建設計画はこれまでに各市町の議会で報告されている。しかし予定地では一部住民にしか知らされておらず、その地域の一般住民への説明会も20年夏、ようやく始まり、3市町の市民に広く知れ渡っていないのが実情だ。専門家は「“迷惑施設”を一部住民に押しつけないように、オープンな場で予定地を議論するなど市民の声を反映させるべきだ」と提案する。【鶴見泰寿】
自治体「丁寧に説明したい」 住民「必要なことは分かる…」
「予定地は、土砂災害特別警戒区域で、地すべり危険箇所。明確な選定基準を示せ」「住民説明が遅すぎる」。8月30日に泉佐野市内で、地元町会が開いた3市町などの説明会に集まった住民から、建設反対を訴える声が相次いだ。
泉佐野市と田尻町のごみ処理施設は1986年に、熊取町の施設は92年にそれぞれ使われ始め、両施設とも耐用年数とされる20年が過ぎ、新施設の整備が急がれる。
泉佐野市と田尻町の施設を運営する広域組合は2014年度、熊取町に参画を打診。15年度に委託した大阪市のコンサルタント会社の調査で、3市町から法律、面積、地形などの条件で示された9候補地のうち、泉佐野市上之郷の旧泉佐野コスモポリス跡地に絞った。その後、熊取町は18年2月、正式に参画。232億5000万円をかけて9・3ヘクタールに新施設を整備する方針だ。予定地選定には、市民は関わっていなかった。
選定後の17年、泉佐野市と予定地の地元町会は、施設の建設に向けて、住民一人一人への丁寧な説明や住環境を守るなどを定めた覚書を交わした。町会は自治体側に説明会を求めてきたが、開かれなかった。町会が今年1月、組合からの資料を地元住民に配布し、そこで初めて計画を知った人が多く、動揺が広がった。説明会はその後、20年8月に始まった。当初、4月に予定していたが新型コロナウイルス感染拡大の影響で更に延び、覚書を結んでから、3年半が経過していた。
自治体側は熊取町の参画で、1市2町のごみの量の再試算に伴う施設規模▽焼却処理方式――などの検討を重ねており、担当者は「より具体化した段階で説明会を予定していた」と開催が今夏になった理由の一端を語る。
地元町会は4〜5月に全78世帯にアンケートし、約8割となる57世帯から回答を得た。「反対」が54%で、「懸念」などを含めると「賛成できない」が100%だった。これを受け、町会は6月、建設計画の対策委員会を設置して自治体側に予定地の選定見直しを求めている。
8月の説明会では、住民から「予定地の変更はあるのか」との質問に、自治体側は「(21年度予定の)環境調査で問題が出ない限り変更はない」との見解を示し、平行線をたどった。説明会は今後も開かれる予定。
摂南大の増田知也講師(地方自治論)は自治体は法律上、市民の同意を得なくてもごみ処理施設をつくることができるとしながらも、自治体側の建設に向けた「手順に問題がある」と説明。老朽化で新たな施設をつくらなければならないと判断した時点で「市民に広く必要性を明らかにすべきだった」と語る。
また、増田講師は「当事者の地域の声を無視すべきではない」と訴える。予定地選びの委員会を改めて設置し、住民を参画させる工夫をするなどして「建設に向けて透明性のある説明が市民になければ将来、わだかまりが残り続ける」と警鐘を鳴らす。
自治体側は「どんなに時間をかけてでも丁寧に説明したい」とする。一方、町会役員はこう訴える。「施設が必要なことは分かっている。しかし、次の世代に地元の住環境を守る責任がある。泉佐野、田尻、熊取の全住民に、せめて我々が置かれている現状だけでも知ってほしい」
毎日新聞 2020年9月28日
https://mainichi.jp/articles/20200928/ddl/k27/010/166000c?inb=ra