新型コロナウイルスの感染拡大が歓楽街の風景も変えている。企業の接待や会合の自粛、感染への警戒から客足が遠のき、「(2008年の)リーマン・ショック以上の災難」(関係者)との声も漏れる。九州一の歓楽街、中洲を歩いた。
福岡市博多区の中洲の目抜き通り。クラブやスナックのネオンが煌々(こうこう)と輝く風景は変わらないが、週末を控えた金曜日の夜でも肩がぶつかるようなにぎわいはなく、すいすいと歩けてしまう。
1958年から中洲で店を営み、今もカウンターに立つ「ニッカバー七島」の七島啓さん(88)は「雨も雪も降ってないのに、この静けさは異様」。過去、経済危機や大震災の自粛ムードで客足が遠のいた経験はある。「それでも『経済を回そう』と静かに飲む人がいた。今はそんな人も少ない」。
「人出は通常の半分以下」
2400軒ほどのクラブやスナック、風俗店がひしめく中洲。政府が不要不急の外出を控えるよう呼び掛けた2月中旬から、客足の減少が鮮明になったという。タクシー運転手の男性(56)は「人出は通常の半分以下。企業が接待や会合の自粛を社員に言い渡し、プライベートの飲み会も少なくなったようだ」
客足減や感染拡大防止の観点から、臨時休業や週末のみの営業を決断する店も。休業を決めたキャバクラ店の店長(40)は「早めに開けたいが、人の戻りなどを見ないと」と話した。
営業中のキャバクラ店は2月中旬から「フリー」と呼ばれる飛び込み客が半減、売上高に2〜3割のマイナス影響が出る見通しという。「営業せずとも家賃は発生するが、客が来ない中で人件費の負担は大きい。経営者は家賃と人件費をてんびんにかけ苦しい判断をしている」と30代男性幹部。
閑散とするクラブでは…
あるバーで取材中、女性2人が「客じゃないです」と入店してきた。2人組はクラブで働く女性。バー経営者に「私たちの店を紹介してもらえませんか?」と依頼し、名刺を置いていった。同伴(店外デート)で訪れた居酒屋などに来店客をつなぐようお願いして回っているという。
「コロナ割」を導入した店も
女性の一人(43)は「店で待っててもお客さんは来ない。どれだけお客さんが来て飲んでくれたかが、自分の収入に直結する。新型コロナも心配だけど、私たちは生きていかなきゃいけない」。
女性のクラブを訪ねると、20のボックス席を備える大型ホールは閑散としており、待機する女性がスマホで必死に営業メールを打っていた。接客業でマスクの着用ができない女性たちに「感染は怖くないか」と問うと、「体調管理はしっかりしている」「満員電車よりまし」と答えた。
各店とも感染防止にはできる限りの注意を払う。出勤時に女性の体温を図ったり、店内では客と従業員の双方に首から下げると空間中のウイルスを除去するとされるカードの使用を義務づけたりしている。
女性が来店客の手をアルコール消毒するサービスを始めたキャバクラ「ヒロインカフェ・ハナ」の店長(38)は「一番大事なのはお客様と従業員の健康。来店客へのマスク提供など最善の努力をする」。集客に苦慮する店では利用料金を半額にする「コロナ割」を導入した店も。店舗関係者は「店の利益は度外視。従業員の給料だけでも出してあげたい」
いつ何時も人に対する「善」を
中洲は過去にも社会・経済情勢の変化の荒波をかぶってきた。耐えきれずに去る人もいたが、幾度の苦境を乗り越えた人も少なくない。
地元財界人らに親しまれる老舗クラブ「まつ本」。ママの松本靖子さん(81)は、中洲を全国区で有名にした伝説のクラブ「薊(あざみ)」(2004年に閉店)でチーママを務めるなど長く中洲の街を見てきた。
「(危機を乗り越える店は)いつ何時も人に対する『善』がある所だと思います」と松本さん。好景気に沸いたバブル期、客の懐に合わせ大きく値上げするクラブもあったが、自身は静観した。バブルが崩壊すると値上げした店には人が寄りつかなくなった。「お客様に対する誠意と、従業員という家族を守れるか。厳しい時もそれがないと店は続かない」 (井崎圭)
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20200313-00010007-nishinpc-bus_all
3/13(金) 10:57配信
福岡市博多区の中洲の目抜き通り。クラブやスナックのネオンが煌々(こうこう)と輝く風景は変わらないが、週末を控えた金曜日の夜でも肩がぶつかるようなにぎわいはなく、すいすいと歩けてしまう。
1958年から中洲で店を営み、今もカウンターに立つ「ニッカバー七島」の七島啓さん(88)は「雨も雪も降ってないのに、この静けさは異様」。過去、経済危機や大震災の自粛ムードで客足が遠のいた経験はある。「それでも『経済を回そう』と静かに飲む人がいた。今はそんな人も少ない」。
「人出は通常の半分以下」
2400軒ほどのクラブやスナック、風俗店がひしめく中洲。政府が不要不急の外出を控えるよう呼び掛けた2月中旬から、客足の減少が鮮明になったという。タクシー運転手の男性(56)は「人出は通常の半分以下。企業が接待や会合の自粛を社員に言い渡し、プライベートの飲み会も少なくなったようだ」
客足減や感染拡大防止の観点から、臨時休業や週末のみの営業を決断する店も。休業を決めたキャバクラ店の店長(40)は「早めに開けたいが、人の戻りなどを見ないと」と話した。
営業中のキャバクラ店は2月中旬から「フリー」と呼ばれる飛び込み客が半減、売上高に2〜3割のマイナス影響が出る見通しという。「営業せずとも家賃は発生するが、客が来ない中で人件費の負担は大きい。経営者は家賃と人件費をてんびんにかけ苦しい判断をしている」と30代男性幹部。
閑散とするクラブでは…
あるバーで取材中、女性2人が「客じゃないです」と入店してきた。2人組はクラブで働く女性。バー経営者に「私たちの店を紹介してもらえませんか?」と依頼し、名刺を置いていった。同伴(店外デート)で訪れた居酒屋などに来店客をつなぐようお願いして回っているという。
「コロナ割」を導入した店も
女性の一人(43)は「店で待っててもお客さんは来ない。どれだけお客さんが来て飲んでくれたかが、自分の収入に直結する。新型コロナも心配だけど、私たちは生きていかなきゃいけない」。
女性のクラブを訪ねると、20のボックス席を備える大型ホールは閑散としており、待機する女性がスマホで必死に営業メールを打っていた。接客業でマスクの着用ができない女性たちに「感染は怖くないか」と問うと、「体調管理はしっかりしている」「満員電車よりまし」と答えた。
各店とも感染防止にはできる限りの注意を払う。出勤時に女性の体温を図ったり、店内では客と従業員の双方に首から下げると空間中のウイルスを除去するとされるカードの使用を義務づけたりしている。
女性が来店客の手をアルコール消毒するサービスを始めたキャバクラ「ヒロインカフェ・ハナ」の店長(38)は「一番大事なのはお客様と従業員の健康。来店客へのマスク提供など最善の努力をする」。集客に苦慮する店では利用料金を半額にする「コロナ割」を導入した店も。店舗関係者は「店の利益は度外視。従業員の給料だけでも出してあげたい」
いつ何時も人に対する「善」を
中洲は過去にも社会・経済情勢の変化の荒波をかぶってきた。耐えきれずに去る人もいたが、幾度の苦境を乗り越えた人も少なくない。
地元財界人らに親しまれる老舗クラブ「まつ本」。ママの松本靖子さん(81)は、中洲を全国区で有名にした伝説のクラブ「薊(あざみ)」(2004年に閉店)でチーママを務めるなど長く中洲の街を見てきた。
「(危機を乗り越える店は)いつ何時も人に対する『善』がある所だと思います」と松本さん。好景気に沸いたバブル期、客の懐に合わせ大きく値上げするクラブもあったが、自身は静観した。バブルが崩壊すると値上げした店には人が寄りつかなくなった。「お客様に対する誠意と、従業員という家族を守れるか。厳しい時もそれがないと店は続かない」 (井崎圭)
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20200313-00010007-nishinpc-bus_all
3/13(金) 10:57配信