■物をつかむように動かせる「偽の親指」があった、霊長類で初
米ノースカロライナ州立大学の准教授であるアダム・ハートストーン・ローズ氏は、肘から先の前腕の筋肉を研究している。ともすると見過ごされがちだが、驚くほど精巧にできていて、手指の繊細な動きをコントロールする筋肉だ。これがなければ、モーツァルトのピアノ協奏曲を弾くことはできない。
さらに氏は、様々な霊長類の前腕(前肢)も研究し、異なる種の間でどのような解剖学的違いがあるのかを比較している。そしてこのたび、マダガスカルにすむ霊長類アイアイ(Daubentonia madagascariensis)の6本目の指を発見し、10月21日付けの学術誌「American Journal of Physical Anthropology」に論文を発表した。
研究室にアイアイのサンプルが舞い込んできたとき、ハートストーン・ローズ氏は小躍りしたという。「アイアイの手と指はかなり変わっているというので有名なんです」。研究のし甲斐があるというものだ。
アイアイはとりわけ奇妙な生き物だ。マダガスカルに分布するキツネザルの仲間で、大きさはイエネコとほぼ同じ。第3指と第4指が異常に細長い。この長い指で木の幹を叩いて、昆虫の幼虫を探す。キツネザルの中では体重に対する脳のサイズが最も大きく、その賢い脳で幼虫の穴を探し当てる。いったん穴を見つけたら、げっ歯類のような前歯で木の皮をかじり、箸のような指を差し込んで獲物をかき出して食べる。
アイアイを調べていたハートストーン・ローズ氏らは、前腕から親指に伸びる「長母指外転筋(ちょうぼしがいてんきん)」と呼ばれる筋肉に注目した。人間の場合、この筋肉を使って親指を外転、つまり親指を立てることができる。「これのおかげで、ヒッチハイクができるわけです」と、ハートストーン・ローズ氏は説明する。
ほとんどの霊長類の場合、長母指外転筋は親指の付け根に付着している。だが、アイアイではその一部が枝分かれして、手首の近くにある「橈側種子骨(とうそくしゅしこつ)」という骨に付着していた。
普通の霊長類の場合、橈側種子骨はごく小さな骨だが、アイアイのそれは細長い。
さらに、その骨の先には、軟骨が伸びていた。詳しく調べてみると、橈側種子骨には他に2種の筋肉がついていて、物をつかむように動かせる。ハートストーン・ローズ氏らは、これを「偽の親指」と呼ぶことにした。そして、これが第6の指として機能し、樹上生活をするアイアイが木につかまるのを助けているのではないかと考えた。
「霊長類でこの構造が見つかったのは初めてです。アイアイは変わった生き物ですから、特に興味深いです」と、ハートストーン・ローズ氏は言う。このような手と腕の構造や、種による違いを研究することは、人間も含め、異なる種の中でこれらがどう進化してきたのかを理解するうえで助けになる。
アイアイのその他の指は、進化の過程において高度に専門化したため、つかむ機能が一部失われたのではないかと、研究チームは仮説を立てた。第4の指の長さは、手全体の3分の2を超える。もし人間にそんな指があったら、30センチ近くになるだろう。また、第3指は非常に細長く、可動域の広い独特の関節があり、主に木の表面を叩くのに使われる。
続きはソースで
ナショナルジオグラフィック日本版サイト
https://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/19/102400611/
米ノースカロライナ州立大学の准教授であるアダム・ハートストーン・ローズ氏は、肘から先の前腕の筋肉を研究している。ともすると見過ごされがちだが、驚くほど精巧にできていて、手指の繊細な動きをコントロールする筋肉だ。これがなければ、モーツァルトのピアノ協奏曲を弾くことはできない。
さらに氏は、様々な霊長類の前腕(前肢)も研究し、異なる種の間でどのような解剖学的違いがあるのかを比較している。そしてこのたび、マダガスカルにすむ霊長類アイアイ(Daubentonia madagascariensis)の6本目の指を発見し、10月21日付けの学術誌「American Journal of Physical Anthropology」に論文を発表した。
研究室にアイアイのサンプルが舞い込んできたとき、ハートストーン・ローズ氏は小躍りしたという。「アイアイの手と指はかなり変わっているというので有名なんです」。研究のし甲斐があるというものだ。
アイアイはとりわけ奇妙な生き物だ。マダガスカルに分布するキツネザルの仲間で、大きさはイエネコとほぼ同じ。第3指と第4指が異常に細長い。この長い指で木の幹を叩いて、昆虫の幼虫を探す。キツネザルの中では体重に対する脳のサイズが最も大きく、その賢い脳で幼虫の穴を探し当てる。いったん穴を見つけたら、げっ歯類のような前歯で木の皮をかじり、箸のような指を差し込んで獲物をかき出して食べる。
アイアイを調べていたハートストーン・ローズ氏らは、前腕から親指に伸びる「長母指外転筋(ちょうぼしがいてんきん)」と呼ばれる筋肉に注目した。人間の場合、この筋肉を使って親指を外転、つまり親指を立てることができる。「これのおかげで、ヒッチハイクができるわけです」と、ハートストーン・ローズ氏は説明する。
ほとんどの霊長類の場合、長母指外転筋は親指の付け根に付着している。だが、アイアイではその一部が枝分かれして、手首の近くにある「橈側種子骨(とうそくしゅしこつ)」という骨に付着していた。
普通の霊長類の場合、橈側種子骨はごく小さな骨だが、アイアイのそれは細長い。
さらに、その骨の先には、軟骨が伸びていた。詳しく調べてみると、橈側種子骨には他に2種の筋肉がついていて、物をつかむように動かせる。ハートストーン・ローズ氏らは、これを「偽の親指」と呼ぶことにした。そして、これが第6の指として機能し、樹上生活をするアイアイが木につかまるのを助けているのではないかと考えた。
「霊長類でこの構造が見つかったのは初めてです。アイアイは変わった生き物ですから、特に興味深いです」と、ハートストーン・ローズ氏は言う。このような手と腕の構造や、種による違いを研究することは、人間も含め、異なる種の中でこれらがどう進化してきたのかを理解するうえで助けになる。
アイアイのその他の指は、進化の過程において高度に専門化したため、つかむ機能が一部失われたのではないかと、研究チームは仮説を立てた。第4の指の長さは、手全体の3分の2を超える。もし人間にそんな指があったら、30センチ近くになるだろう。また、第3指は非常に細長く、可動域の広い独特の関節があり、主に木の表面を叩くのに使われる。
続きはソースで
ナショナルジオグラフィック日本版サイト
https://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/19/102400611/