【動画】家族で紡ぐ アイヌの誇り
アットゥシを織る貝澤雪子さん。左はアイヌ工芸を学ぶために滋賀県から移住してきた柴田幸宏さん(30)
イタを彫る守さん。アットゥシ作りを雪子さんから学んだ妻の美雪さんとともに民芸店を継いでいる
二風谷工芸館を訪れた外国人観光客に伝統楽器「ムックリ」の鳴らし方を教える関根真紀さん(右)
二風谷小学校で児童にアイヌ語を教える関根健司さん。二風谷アイヌ文化博物館勤務で外国人観光客に英語対応もする
友人2人と今月から動画投稿サイト「YouTube」(ユーチューブ)でアイヌ文化の発信を始め、次回の打ち合わせをする関根摩耶さん(中央)=神奈川県藤沢市の慶応大で4月
雪子さんが織った「二風谷アットゥシ」の帯と、守さんが彫った「二風谷イタ」
アイヌ民族の文化が日常生活の中に色濃く残る北海道平取町二風谷(にぶたに)地区。伝統工芸や言語を守りながら、伝承活動を続けるアイヌの家族がいる。同町で工芸を専業とする職人10人の中で、最高齢の貝澤雪子さん(78)一家だ。
雪子さんはアットゥシ職人。アットゥシはニレ科のオヒョウの樹皮から作られた反物で、樹皮のみが原料の織物は世界的に珍しい。皮を煮て、水にさらし、薄くはがすなど糸作りに多くの工程と時間がかかる。身近な草花などの自然素材で染め上げ、独特の淡い色合いと質感を生み出す。
雪子さんは19歳で結婚後、義母から作り方を学んだ。4人の子どもに恵まれたが36歳の時に夫の守幸さん(当時42歳)が急逝した。民芸店を継ぎ、彫りにも挑戦。アイヌ料理店も営むなど、昼夜を問わず働いて子どもを育て上げた。現在、雪子さんの織る帯は、常に入荷待ちの人気商品だ。
雪子さんの長男、守さん(54)はイタ職人。イタは木製のお盆に渦巻きやトゲ、ウロコの文様などを彫り込む。26人在籍する二風谷民芸組合の代表理事も務め、国内外へのPR活動なども行う。二風谷地区で作られるアットゥシとイタは6年前、北海道で初めて国の「伝統的工芸品」に指定された。
雪子さんの次女、関根真紀さん(51)は二風谷工芸館で観光客に地元職人の作品を販売しながら、刺しゅうなど自分の作品づくりも続ける。アイヌ文様を日用品に落とし込む新商品の開発にも積極的で、今月はネクタイをデザインした。真紀さんは「基本の型を学んできたからこそ、“型破り”を目指す」。消滅の危機にあるアイヌ語を守り伝承するのは真紀さんの夫、健司さん(47)と長女の摩耶さん(19)。健司さんは兵庫県出身で、28歳で結婚後にアイヌ語を学び始め、今では日常会話復興の第一人者として活動する。慶応大2年生の摩耶さんは、幼少から健司さんに言語を教わり、昨年度はラジオ番組のアイヌ語講師を担当した。今月から文化や言葉を紹介するインターネット発信も始めた。
摩耶さんが目指すのは「人をつなげていくおばあちゃんの生き方」という。守さんら兄妹は、作品の出来や生活態度にまで厳しい母を「今も我が家の大黒柱」と口をそろえる。雪子さんは「家族に囲まれ、大好きな仕事ができる今が一番幸せ」。一本一本地道に織り続けた59年。ものづくりで家族を守り抜いた誇りも織り込まれている。<写真・文 貝塚太一>(アットゥシの「シ」はアイヌ語表記による。特記のあるものを除き、北海道平取町で4月に撮影)
毎日新聞 2019年4月27日
https://mainichi.jp/articles/20190427/dde/012/040/005000c?inb=ra
アットゥシを織る貝澤雪子さん。左はアイヌ工芸を学ぶために滋賀県から移住してきた柴田幸宏さん(30)
イタを彫る守さん。アットゥシ作りを雪子さんから学んだ妻の美雪さんとともに民芸店を継いでいる
二風谷工芸館を訪れた外国人観光客に伝統楽器「ムックリ」の鳴らし方を教える関根真紀さん(右)
二風谷小学校で児童にアイヌ語を教える関根健司さん。二風谷アイヌ文化博物館勤務で外国人観光客に英語対応もする
友人2人と今月から動画投稿サイト「YouTube」(ユーチューブ)でアイヌ文化の発信を始め、次回の打ち合わせをする関根摩耶さん(中央)=神奈川県藤沢市の慶応大で4月
雪子さんが織った「二風谷アットゥシ」の帯と、守さんが彫った「二風谷イタ」
アイヌ民族の文化が日常生活の中に色濃く残る北海道平取町二風谷(にぶたに)地区。伝統工芸や言語を守りながら、伝承活動を続けるアイヌの家族がいる。同町で工芸を専業とする職人10人の中で、最高齢の貝澤雪子さん(78)一家だ。
雪子さんはアットゥシ職人。アットゥシはニレ科のオヒョウの樹皮から作られた反物で、樹皮のみが原料の織物は世界的に珍しい。皮を煮て、水にさらし、薄くはがすなど糸作りに多くの工程と時間がかかる。身近な草花などの自然素材で染め上げ、独特の淡い色合いと質感を生み出す。
雪子さんは19歳で結婚後、義母から作り方を学んだ。4人の子どもに恵まれたが36歳の時に夫の守幸さん(当時42歳)が急逝した。民芸店を継ぎ、彫りにも挑戦。アイヌ料理店も営むなど、昼夜を問わず働いて子どもを育て上げた。現在、雪子さんの織る帯は、常に入荷待ちの人気商品だ。
雪子さんの長男、守さん(54)はイタ職人。イタは木製のお盆に渦巻きやトゲ、ウロコの文様などを彫り込む。26人在籍する二風谷民芸組合の代表理事も務め、国内外へのPR活動なども行う。二風谷地区で作られるアットゥシとイタは6年前、北海道で初めて国の「伝統的工芸品」に指定された。
雪子さんの次女、関根真紀さん(51)は二風谷工芸館で観光客に地元職人の作品を販売しながら、刺しゅうなど自分の作品づくりも続ける。アイヌ文様を日用品に落とし込む新商品の開発にも積極的で、今月はネクタイをデザインした。真紀さんは「基本の型を学んできたからこそ、“型破り”を目指す」。消滅の危機にあるアイヌ語を守り伝承するのは真紀さんの夫、健司さん(47)と長女の摩耶さん(19)。健司さんは兵庫県出身で、28歳で結婚後にアイヌ語を学び始め、今では日常会話復興の第一人者として活動する。慶応大2年生の摩耶さんは、幼少から健司さんに言語を教わり、昨年度はラジオ番組のアイヌ語講師を担当した。今月から文化や言葉を紹介するインターネット発信も始めた。
摩耶さんが目指すのは「人をつなげていくおばあちゃんの生き方」という。守さんら兄妹は、作品の出来や生活態度にまで厳しい母を「今も我が家の大黒柱」と口をそろえる。雪子さんは「家族に囲まれ、大好きな仕事ができる今が一番幸せ」。一本一本地道に織り続けた59年。ものづくりで家族を守り抜いた誇りも織り込まれている。<写真・文 貝塚太一>(アットゥシの「シ」はアイヌ語表記による。特記のあるものを除き、北海道平取町で4月に撮影)
毎日新聞 2019年4月27日
https://mainichi.jp/articles/20190427/dde/012/040/005000c?inb=ra