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2018年1月3日 9:00 発信地:ドリフィールド/英国
【1月3日 AFP】英イングランド北部ヨークシャー(Yorkshire)地方にあるビール醸造所では、サンドイッチ工場から大量に廃棄されたパンの耳を大きなステンレスタンクの中に投下することからその醸造工程が始まる──。
ヨークシャー地方ドリフィールド(Driffield)近くにある醸造所「ワールド・トップ・ブルーワリー(World Top Brewery)」で現場責任者を務めるアレックス・バルチン(Alex Balchin)氏は、「基本的に、麦芽の一部をパンで代替しているのです」と語る。
タンクの中に入れたパンの耳に水、ホップ、イーストを加えてできるのは、間違いなく世界中で愛されているあの黄金の飲み物だ。この醸造所でできるビールは「トーストエール(Toast Ale)」と呼ばれているが、パンの味はまったくしない。
ここでは食品廃棄物を減らす運動を支援する一環として、英国で食べられることなく廃棄される大量のパンの一部をビール製造に使用している。このアイデアは今、世界中に広まっているという。
トーストエールを事業として推し進めているのは、食品廃棄物をなくす活動に取り組む団体「フィードバック(Feedback)」の創設者トリスラム・スチュアート(Tristram Stuart)氏(40)だ。同氏は昨年、このビールの生産を始めた。
スチュアート氏は、ベルギーの小さな醸造所、ブリュッセル・ビアプロジェクト(Brussels Beer Project)が2015年に残り物のパンを利用して生産開始したビール「バビロン(Babylone)」を見て事業の立ち上げを決めたのだという。「古代バビロニア人は無駄となってしまうパンや穀物を保存しようとしてビールを発明したことを彼らに教えてもらった。それがビールのそもそもの目的だったことも」
■セレブシェフ、ジェイミー・オリバー氏も絶賛
スチュアート氏は独自に調査を行い、世界で食料援助団体が活用できる以上のパンが「産業的規模」で廃棄されていること、そして地ビール醸造がますます世界的な盛り上がりを見せていることを突き止めた。
そのような背景から、「一地域の中で廃棄パンが出る場所、地ビール醸造所、非営利団体を組み合わせる会社を発足させ、そしてビール製造に完璧にぴったりなパンからさらに良いビールを造る世界的企業にトーストエールをしたいと考えた」のだという。
得られた収益は、提携先の地ビール醸造所に生産コストが支払われた後、「フィードバック」に寄付される。またビール製造の過程で出る穀物のかすは、すべて家畜の餌として再利用される。
スチュアート氏の最初のトーストエールは、英国のセレブシェフ、ジェイミー・オリバー(Jamie Oliver)さんのテレビ番組の中で造られた。オリバーさんは「とてつもなくおいしいビールだ」と絶賛した。
今やトーストエールは、ラガーからペールエールまで種類がそろうようになった。中には、ブリストル(Bristol)の醸造所「ワイパー・アンド・トゥルー(Wiper and True)」で造られる「ブレッドプティング(Bread Pudding)」のように独自のバージョンも登場している。
■目標はパンの大量生産を減らすこと
英国ではすでにパン9.8トンを使って30万本以上のビールが生産されている。値段は1本当たり2.5〜3ポンド(約380〜450円)で、他の地ビールとほぼ同じ価格だ。
環境問題の解決にとっては小さな一歩だ。だが、やるべきことはまだたくさんある。
「地球で起きていることを見ると、とても気がめいる」とスチュアート氏は話すが、それでも「この解決方法は素晴らしかった」と素直に喜びをあらわにする。ビジネスは急成長し、トーストエールは現在、米ニューヨークやブラジルのリオデジャネイロ、南アフリカのケープタウンでも醸造されている。
パンからビールを造るスチュアート氏の製法はネット上で公開されており、これまでのダウンロード回数は1万6000回に達している。この製法を見れば、誰でもパンからビールを醸造する方法を学ぶことができ、食品の無駄を削減することにも貢献できる。
スチュアート氏の目下の目標は、それぞれの地元で売れ残ったパンの提供源と協力しながら、世界中のどこのビール醸造者でもこのエールを商業生産できるライセンスを発行することだ。
しかし、「フィードバック」の究極の目標は、パンの大量生産を減らすこと。スチュアート氏自身のベンチャー事業とは矛盾する。それでも同氏は「私たちのビジネスがなくなることが一番の望み」だと言い切る。「パンが捨てられることがない日が来れば、トーストエールが存在する理由はもはやなくなるのだから」 (c)AFP/Pauline FROISSART