・鯨を“殺し続ける”反捕鯨国アメリカの実態:八木景子(映画監督)
<<日本政府は昨年12月26日、鯨資源の管理を担うIWC(国際捕鯨委員会)からの脱退と1988年以来となる商業捕鯨再開を表明した。今年7月から、日本近海の排他的経済水域内(200海里)において商業捕鯨を再開する予定である。
八木景子氏は2015年、和歌山県太地町のイルカ漁を批判した『ザ・コーヴ』(2009年、米アカデミー賞長編ドキュメンタリー映画賞)の反証として『ビハインド・ザ・コーヴ 捕鯨問題の謎に迫る』を発表し、大きな話題を呼んだ。捕鯨をめぐる政治の裏側を取材した八木監督は今回、政府の決断をどう評価したのか。さらにIWCという国際組織の実態について聞いた。(聞き手:『Voice』編集部)>>
反捕鯨国からも評価された作品
――八木監督の『ビハインド・ザ・コーヴ』は、日本の豊かな捕鯨文化を伝え、反捕鯨の環境保護団体への取材も敢行することで、運動の実態を浮き彫りにしました。作品に込めた思いについて教えてください。
【八木】 本作を撮ろうと思ったきっかけは、2014年3月に国際司法裁判所が日本の調査捕鯨の中止を命じた、と報じられたことです。
日本の鯨文化がなくなってしまうのではないか、という危機感を覚えると同時に、捕鯨の歴史や文化が国内外で正しく伝わっていない、と感じました。
そこで、イルカの追い込み漁を行なっている和歌山県太地町に4カ月間滞在しながら、取材・撮影を行ないました。制作と配給に掛けた800万円はいずれも自費で、なぜあれほど捕鯨問題にのめり込めたのか、自分でも不思議です(笑)。
――その甲斐あって2015年の公開以降、同作は世界中で注目を集めています。
【八木】 2018年にはロンドン国際映画制作者祭で長編ドキュメンタリー最優秀監督賞、ニューヨーク国際映画制作者祭で審査員特別賞を受賞するなど、反捕鯨国と思われていたイギリスやアメリカの映画祭でも幸い、高評価をいただきました。
ロンドンの同映画祭では、パッション(熱意)とバランス(調和)がある、映画の構成が良い、という3つの評価をいただき、ニューヨークの同映画祭では「これまで知らなかった捕鯨に関する歴史的背景を伝え、教育的な側面もある」とのことでした。
審査員は反捕鯨の人ばかりでしたが、ある意味でフラットに見てもらえたと思います。本作が日本の捕鯨を世界に理解してもらう1つの契機になったとすれば、嬉しい限りですね。
科学的議論が通用しないIWCの実態
――IWCからの脱退を決めた日本政府の決断をどのように受け止めましたか。
【八木】 政府の決定は当然で、むしろ遅すぎたのではないか、と思います。
メディアでも報じられているとおり、IWC脱退の決断については、安倍晋三首相と二階俊博・自民党幹事長の力が大きい。安倍首相の地元である山口県下関市は「近代捕鯨発祥の地」として知られます。
また、和歌山県太地町は二階幹事長の選挙地盤です。『ビハインド・ザ・コーヴ』が2015年にモントリオール世界映画祭に正式出品されたことを受けて、自民党本部で上映された際、二階幹事長には隣の席で一緒に鑑賞していただきました。
同じく和歌山県が地盤で捕鯨議連メンバーの鶴保庸介議員も、入院中に2回、自民党本部で1回、計3回も観たとのことでした。
――脱退の経緯をあらためてお聞かせください。
【八木】 IWCが1982年に「商業捕鯨」のモラトリアム(一時停止)を決定して以降、日本は87年から鯨のデータ収集のために南極海や北大西洋で「調査捕鯨」を開始する一方で、翌年に商業捕鯨を停止しました。
その後、30年にわたり日本が科学的データをもとに商業捕鯨の再開を訴え続けても、いっこうに提案は聞き入れられません。
たとえばIWCの科学委員会は「鯨資源包括的評価の結果、南氷洋のミンククジラは76万頭と認め、現在の管理方式に基づけば、百年間に毎年最低2000頭から4000頭を捕獲することが資源に何の問題も及ぼさず可能である」とすでに公表しています。
しかし、日本がこの実証結果をもとに商業捕鯨の再開を求めても、反捕鯨国はいっさい取り合わずに「鯨そのものがエコの象徴」と言い続ける。
>>2
(ミンククジラ)
2019年03月05日 公開 WebVoice
https://shuchi.php.co.jp/voice/detail/6150