◆シンクタンクは「超富裕層の資産額が過去20年間で最も減少」と指摘
中国で生産財の価格が下落している。
11月9日に発表された10月の卸売物価指数(PPI)は前年同月に比べて1.3%下落し、2020年12月以来1年10ヶ月ぶりのマイナスになった。
長年デフレに苦しんできた日本でさえ、世界的な資源インフレなどの影響で10月の企業物価指数(PPIに相当)は9.1%上昇している状況をかんがみれば、中国のPPIの下落は注目に値する。
PPIのうち、産業構造の川上や川中にあたる生産財は2.5%の下落となった。鉄鋼が21%、非鉄金属は8%低下し、9月からの下落幅が拡大した。9月まで上昇していた肥料など化学原料やゴム・プラスチック製品も下落に転じた。
生産財の部門でデフレリスクが台頭しているのは、不動産市場の不調が長引いているからだ。中国の民間調査会社によれば、国内100都市の住宅価格及び住宅販売は10月も低迷が続いている。
そのせいで設備投資全般が不振となり、生産財の部門は苦境にあえいでいる。
◆高級マンションのたたき売り
不動産市場の不調は資産デフレという悪弊も引き起こしている。
中国で最も不動産価格が高いとされている上海では高級マンションのたたき売りが起きており、競売市場で最低入札価格「20円」で売り出されるケースも散見されているという(11月11日付ダイヤモンドオンライン)。
中国の民間シンクタンクが11月8日に公表した「中国富豪ランキング2022年版」は「超富裕層の総資産額が過去20年間で最大の減少となった」と指摘している。
ゼロコロナ政策に起因する景気の低迷も家計の節約志向を強めている。
10月の中国の消費者物価指数(CPI)は2.1%上がったが、主因は食肉消費の6割を占める豚肉の価格高騰だ。CPIがマイナスに転じるのは時間の問題だろう。
中国のデフレリスクの原因は不動産市場の不調だと言っても過言ではない。なぜ中国の不動産市場の不調が続いているのだろうか。
◆資金の流れに変調
高騰が続く中国の不動産市場については過去何度も「バブル崩壊の懸念」が警告されてきた。にもかかわらず、最近まで活況が続いていたのは「合理的バブル」のおかげだ。
最近の経済学の知見は、実質経済成長率(成長率)が平均貸出金利(貸出金利)を上回る状態が続いている限り、資産バブルが持続することを明らかにしている。合理的バブルはこのような状況で発生しているバブルにほかならない。
21世紀に入り、中国の成長率は常に貸出金利を上回っていたが、昨年から成長率が貸出金利を下回るようになった。今年上半期の成長率も貸出金利を下回っていることが確実であり、中国で続いてきた合理的バブルの条件が消滅しつつある。
不動産バブル崩壊の影響で日本は1996年にデフレに陥り、翌97年に金融危機が発生した経緯がある。中国でも資金の流れに変調が起きているのが気がかりだ。
中国人民銀行が11月10日に発表した10月の人民元建て新規銀行融資は6152億元となり、前月(2兆4700億元)から急減した。人民銀行が融資促進を働きかけたのにもかかわらず、新規融資は4年10ヶ月ぶりの低水準に落ち込んでしまった。
国際金融協会は11月9日「外国人投資家は10月、中国の金融市場から88億ドルの資金を引き揚げた」との推計を示した。「中国外し」の動きが見せる新興国ファンドが現れるなど「チャイナ・パッシング」の動きが顕在化している。
中国の銀行の株価も急落している。中国工商銀行など4大国有銀行の香港上場株の株価純資産倍率(PER)は0.4にまで落ち込んでいる。この水準は2008年の金融危機時のJPモルガン・チェースなど米国の大手銀行とほぼ一致しており、市場は中国での金融危機発生を既に織り込み始めているようだ。
不動産バブル崩壊が金融危機へとつながる懸念が生じる状況下、10月に開催された5年に1度の中国共産党大会は極めて重要な意味を持っていたのだが、成果はまったく期待外れだった。不動産市場を浮揚させる手がかりがほとんど提供されなかったし、新しい成長の原動力が示されることもなかった。
(以下略)
藤和彦
デイリー新潮編集部
11/18(金) 6:31配信
デイリー新潮
https://news.yahoo.co.jp/articles/580540d11827a87091c3c539bd7d42605c1fe94e?page=1
中国で生産財の価格が下落している。
11月9日に発表された10月の卸売物価指数(PPI)は前年同月に比べて1.3%下落し、2020年12月以来1年10ヶ月ぶりのマイナスになった。
長年デフレに苦しんできた日本でさえ、世界的な資源インフレなどの影響で10月の企業物価指数(PPIに相当)は9.1%上昇している状況をかんがみれば、中国のPPIの下落は注目に値する。
PPIのうち、産業構造の川上や川中にあたる生産財は2.5%の下落となった。鉄鋼が21%、非鉄金属は8%低下し、9月からの下落幅が拡大した。9月まで上昇していた肥料など化学原料やゴム・プラスチック製品も下落に転じた。
生産財の部門でデフレリスクが台頭しているのは、不動産市場の不調が長引いているからだ。中国の民間調査会社によれば、国内100都市の住宅価格及び住宅販売は10月も低迷が続いている。
そのせいで設備投資全般が不振となり、生産財の部門は苦境にあえいでいる。
◆高級マンションのたたき売り
不動産市場の不調は資産デフレという悪弊も引き起こしている。
中国で最も不動産価格が高いとされている上海では高級マンションのたたき売りが起きており、競売市場で最低入札価格「20円」で売り出されるケースも散見されているという(11月11日付ダイヤモンドオンライン)。
中国の民間シンクタンクが11月8日に公表した「中国富豪ランキング2022年版」は「超富裕層の総資産額が過去20年間で最大の減少となった」と指摘している。
ゼロコロナ政策に起因する景気の低迷も家計の節約志向を強めている。
10月の中国の消費者物価指数(CPI)は2.1%上がったが、主因は食肉消費の6割を占める豚肉の価格高騰だ。CPIがマイナスに転じるのは時間の問題だろう。
中国のデフレリスクの原因は不動産市場の不調だと言っても過言ではない。なぜ中国の不動産市場の不調が続いているのだろうか。
◆資金の流れに変調
高騰が続く中国の不動産市場については過去何度も「バブル崩壊の懸念」が警告されてきた。にもかかわらず、最近まで活況が続いていたのは「合理的バブル」のおかげだ。
最近の経済学の知見は、実質経済成長率(成長率)が平均貸出金利(貸出金利)を上回る状態が続いている限り、資産バブルが持続することを明らかにしている。合理的バブルはこのような状況で発生しているバブルにほかならない。
21世紀に入り、中国の成長率は常に貸出金利を上回っていたが、昨年から成長率が貸出金利を下回るようになった。今年上半期の成長率も貸出金利を下回っていることが確実であり、中国で続いてきた合理的バブルの条件が消滅しつつある。
不動産バブル崩壊の影響で日本は1996年にデフレに陥り、翌97年に金融危機が発生した経緯がある。中国でも資金の流れに変調が起きているのが気がかりだ。
中国人民銀行が11月10日に発表した10月の人民元建て新規銀行融資は6152億元となり、前月(2兆4700億元)から急減した。人民銀行が融資促進を働きかけたのにもかかわらず、新規融資は4年10ヶ月ぶりの低水準に落ち込んでしまった。
国際金融協会は11月9日「外国人投資家は10月、中国の金融市場から88億ドルの資金を引き揚げた」との推計を示した。「中国外し」の動きが見せる新興国ファンドが現れるなど「チャイナ・パッシング」の動きが顕在化している。
中国の銀行の株価も急落している。中国工商銀行など4大国有銀行の香港上場株の株価純資産倍率(PER)は0.4にまで落ち込んでいる。この水準は2008年の金融危機時のJPモルガン・チェースなど米国の大手銀行とほぼ一致しており、市場は中国での金融危機発生を既に織り込み始めているようだ。
不動産バブル崩壊が金融危機へとつながる懸念が生じる状況下、10月に開催された5年に1度の中国共産党大会は極めて重要な意味を持っていたのだが、成果はまったく期待外れだった。不動産市場を浮揚させる手がかりがほとんど提供されなかったし、新しい成長の原動力が示されることもなかった。
(以下略)
藤和彦
デイリー新潮編集部
11/18(金) 6:31配信
デイリー新潮
https://news.yahoo.co.jp/articles/580540d11827a87091c3c539bd7d42605c1fe94e?page=1