(ジャーナリスト・吉村剛史)
新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染症がパンデミック(世界的な大流行)を引き起こす中、中国の孔鉉佑駐日大使は、台湾の世界保健機関(WHO)参加に関する筆者の取材に応じ、今後はWHO年次総会などにオブザーバーとして参加することが常態化してゆく、との見解を示した。「すでに関係各方面との調整が始まっている」という。
台湾の蔡英文政権は中国の圧力の中、ここ数年中国が強い影響力を持つWHOから締め出されていたが、中国湖北省武漢市に端を発した新型ウイルスの感染拡大をめぐって、防疫における地理的空白地帯の存在が国際社会から疑問視されるなか、今後はこの問題で中国が柔軟な姿勢をとっていく方向性を示唆した。国際社会の批判をかわす狙いとみられる。
蔡英文政権になるとWHOから締め出されるように
孔氏は27日、東京都千代田区内幸町の日本記者クラブで会見し、中国における新型コロナウイルス対応の現状などについて話した。
しかし台湾のWHO加盟問題には触れられないまま時間切れとなったため、終了後、筆者が補足の質問として直接、孔氏に問いかけたところ、応じた。
台湾がWHOから締め出されてきた状況が世界的に疑問視されている中、「今後は台湾がWHOにオブザーバー参加することが常態化するとみていいか」との質問に対し、「おそらくそうなるだろう。その方向ですでに関係各方面との話し合い、調整が始まっている」と日本語で答えた。
台湾は中国の国連加盟に伴い、1971年に国連機関を脱退。このため国連の専門機関であるWHOも「一つの中国」の原則を掲げる中国の圧力により、加盟できない状態となっている。
しかし、2002年に中国で端を発し、翌03年に台湾などで流行した重症急性呼吸器症候群(SARS)の問題を機に、政治問題に由来する防疫面の地理的空白地帯の存在は、国際社会の問題の一つとして認識されるようになり、台湾のWHO参加は課題となっていた。
台湾は、中国との関係強化を推進した馬英九政権(中国国民党)当時の2009年から16年までは、8年連続でWHOの年次総会にオブザーバー参加が認められていた。しかし、中国と距離をおく蔡英文政権(民主進歩党)が発足した後の2017年以降は、中国の反発、圧力などで総会から招待されなくなっていた。
「WHOは政治的中立保てていない」との批判高まる
台湾のWHO参加については常に中国との間の政治問題が障壁としてつきまとう。国連常任理事国である中国は、国連の活動資金となる各国の分担金拠出額において米国に次ぐ第2位で、台湾への圧力を加えやすい立場にある。このため台湾はWHO専門家会合への参加も容易ではなく、19年に台湾が参加を申請した専門家会合のうち、7割近くがWHOから出席拒否されており、蔡政権は「WHOから情報が提供されず、感染症の封じ込めに失敗すれば、多くの命が犠牲になりかねない」などと強く訴えていた。
続く
https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/59933
JBPRESS 2020.3.29(日)
新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染症がパンデミック(世界的な大流行)を引き起こす中、中国の孔鉉佑駐日大使は、台湾の世界保健機関(WHO)参加に関する筆者の取材に応じ、今後はWHO年次総会などにオブザーバーとして参加することが常態化してゆく、との見解を示した。「すでに関係各方面との調整が始まっている」という。
台湾の蔡英文政権は中国の圧力の中、ここ数年中国が強い影響力を持つWHOから締め出されていたが、中国湖北省武漢市に端を発した新型ウイルスの感染拡大をめぐって、防疫における地理的空白地帯の存在が国際社会から疑問視されるなか、今後はこの問題で中国が柔軟な姿勢をとっていく方向性を示唆した。国際社会の批判をかわす狙いとみられる。
蔡英文政権になるとWHOから締め出されるように
孔氏は27日、東京都千代田区内幸町の日本記者クラブで会見し、中国における新型コロナウイルス対応の現状などについて話した。
しかし台湾のWHO加盟問題には触れられないまま時間切れとなったため、終了後、筆者が補足の質問として直接、孔氏に問いかけたところ、応じた。
台湾がWHOから締め出されてきた状況が世界的に疑問視されている中、「今後は台湾がWHOにオブザーバー参加することが常態化するとみていいか」との質問に対し、「おそらくそうなるだろう。その方向ですでに関係各方面との話し合い、調整が始まっている」と日本語で答えた。
台湾は中国の国連加盟に伴い、1971年に国連機関を脱退。このため国連の専門機関であるWHOも「一つの中国」の原則を掲げる中国の圧力により、加盟できない状態となっている。
しかし、2002年に中国で端を発し、翌03年に台湾などで流行した重症急性呼吸器症候群(SARS)の問題を機に、政治問題に由来する防疫面の地理的空白地帯の存在は、国際社会の問題の一つとして認識されるようになり、台湾のWHO参加は課題となっていた。
台湾は、中国との関係強化を推進した馬英九政権(中国国民党)当時の2009年から16年までは、8年連続でWHOの年次総会にオブザーバー参加が認められていた。しかし、中国と距離をおく蔡英文政権(民主進歩党)が発足した後の2017年以降は、中国の反発、圧力などで総会から招待されなくなっていた。
「WHOは政治的中立保てていない」との批判高まる
台湾のWHO参加については常に中国との間の政治問題が障壁としてつきまとう。国連常任理事国である中国は、国連の活動資金となる各国の分担金拠出額において米国に次ぐ第2位で、台湾への圧力を加えやすい立場にある。このため台湾はWHO専門家会合への参加も容易ではなく、19年に台湾が参加を申請した専門家会合のうち、7割近くがWHOから出席拒否されており、蔡政権は「WHOから情報が提供されず、感染症の封じ込めに失敗すれば、多くの命が犠牲になりかねない」などと強く訴えていた。
続く
https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/59933
JBPRESS 2020.3.29(日)